研究実績の概要 |
神経細胞の配置と神経回路形成は、神経系の形成過程で行われる重要なプロセスであり、これまでの研究で様々な制御分子が同定されてきている。軸索ガイダンス分子の中でもセマフォリン(Sema)は軸索の伸長を阻害する。我々はSema3Aの反応にCdk5が必要であることを示したが(Sasaki et al., Neuron 2005)、この過程で、Cdk5がCRMP2のSer522をリン酸化し、このリン酸化が軸索退縮反応に必須であることを示した。CRMP2のリン酸化はCdk5によるSer522をプライミングとしてさらにGSK3によりThr509, Thr514, Thr518がリン酸化される。これらのリン酸化によりチュブリンダイマーとの結合能が低下して軸索の退縮が起きることを示した(Uchida et al., 2007)。我々は横浜市大の五嶋研究室と共同で、このリン酸化部位のSerをAlaに1アミノ酸置換したCRMP2knockin(KI)マウスを作出した。さらに、CRMP4欠損マウス、CRMP1欠損マウスなどとの重複マウスを作製し、CRMPの神経発達における役割を解明してきた(Yamashita et al., JNS 2012;Niisato et al., 2012, 2013)。しかし、CRMPは1-5まであり、これらの代償機能により、単独の遺伝子改変ではその役割の解明に限界があった。さらに、CRMPの神経再生における機能がin vitroの実験で示唆されており、CRMPの神経発達と神経再生における役割を遺伝子改変マウスを用いてin vivoで検証している。
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今後の研究の推進方策 |
A,CRMPの神経発生における役割の解明 CRMP1,CRMP2,CRMP4の多重変異マウスについて、大脳皮質切片を作成し、Nissl染色による観察を行なう。詳細な解析として、BrdUを妊娠マウスに腹腔内投与によりbirthdateラベルし、BrdU染色を生後10日目で行なうことにより、大脳皮質神経細胞の移動を評価する。さらに、GFP-Mを導入したマウスで樹状突起形成やGolgi法によるスパイン形成などの解析を行なう。 B,CRMPの神経再生への役割の解明とその応用 CRMP2KIマウスの脊髄損傷後の回復について、行動学的解析(BMSスコア)を多数例で行なうとともに、損傷急性期、回復期、回復評価後に、組織学的評価および生化学的評価を行なう。具体的には、組織学的評価として、neurofilament, GAP43などの免疫染色、グリオーシスの評価としてGFAP(アストロサイトマーカー)とIba1(マイクログリアマーカー)の免疫染色を行なう。生化学的評価としてウエスタンブロットを行なう。neurofilament, GAP43, GFAPに加えて、CRMP1-5に対する抗体, CRMP2とCRMP4のリン酸化抗体などを用いて解析を行なう。CRMP2KIの結果を踏まえて、Cdk5やGSK3betaの阻害剤を用いた検討も合わせて行なう。 以上の検討で得られた研究成果を、学会や学術誌などで報告する。
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