研究課題/領域番号 |
26430048
|
研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
肥後 剛康 独立行政法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (10396757)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 霊長類 / 高次脳機能 / 前頭前野 / 神経投射 / ウイルスベクター |
研究実績の概要 |
霊長類の高度な「思考」や「注意」といった高次脳機能は、PFCニューロンが下位の側頭葉や頭頂葉を含む脳全体のニューロン群を制御することで実現されると考えられており、メカニズムとして、「トップダウン制御」が提唱されている。しかし、その詳細なメカニズムは未だ不明であり、前頭前野(PFC)ニューロンの操作技術開発が世界的に待たれている。
この操作技術開発を行う実験動物としては、ヒトと同じ霊長目に属し、ヒト脳との機能的かつ組織的相同性が高く、更に侵襲実験が容易であるマカク属サル(アカゲザルとニホンザル)が最善であると考え、(1)PFCニューロンからの情報出力阻害を (2)投射特異的に行うことを計画した。しかし、マカク属サルでは、げっ歯類のように遺伝的背景が同一の個体が存在せず、しかも物理的、倫理的側面から使用頭数が限られるため、1個体内で実験を完結する 必要がある。申請者は、これらを克服するため PFCニューロン阻害のon/offが繰り返し可能となるよう(3)可逆的、かつ(4)長期的に行う系の開発を以下の通り行った。因みに、発現の評価は、免疫組織化学的手法である抗体を用いた脳切片の染色解析によって行っている。
成果としては、(1)神経結合の阻害は、シナプス情報伝達に必須なシナプス小胞膜タンパク質VAMP-2を切断不活性化するタンパク質eTeNT-GFPの作製、(2)投射特異性は、逆行性輸送能力のある融合タンパク質CTB-TeT3Gの開発、(3)可逆的に関しては、Tet-OnとTet-offのハイブリッド型制御システムの開発、(4)長期的に関しては、様々なウイルスベクターの試行錯誤よりAAV-5または-6によって実現することに決定し、上記の4要素を有機的に組み合わせた発現系を確立した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
成果として、(1)神経結合の阻害は、シナプス情報伝達に必須なシナプス小胞膜タンパク質VAMP-2を切断不活性化するタンパク質eTeNT-GFPの作製、(2)投射特異性は、逆行性輸送能力のある融合タンパク質CTB-TeT3Gの開発、(3)可逆的に関しては、Tet-OnとTet-offのハイブリッド型制御システムの開発、(4)長期的に関しては、様々なウイルスベクターの試行錯誤よりAAV-5または-6によって実現することが決定し、上記の4要素を有機的に組み合わせた発現系が確立したため、当初の予定である(1)PFCニューロンからの神経阻害を(2)投射特異的 (3)可逆的、かつ(4)長期的に行う系の開発のための各条件の絞り込みがおおむね順調に進展したと言える。
|
今後の研究の推進方策 |
上述の成果であるPFCニューロンでの投射特異的eTeNT-GFP発現によって、実際にPFCからの情報伝達が操作されるかを電気生理学的に確認する。方法としては、発現系をAAVによって導入したサルのPFCに刺激電極を挿入し、神経情報を発生させる電気刺激を行う。同時に、側頭葉TEに設置した記録電極においてPFCから下降した神経活動(スパイク)を検出する。この実験をDox投与前後で行い比較検討する。電気記録の際に、PFCでのeTeNT-GFPの発現を蛍光顕微鏡で観察、記録し、発現強度と神経活動阻害の相関も解析する、Dox投与は、1週間を1回だけでなく、途中3週間のインターバルをいれることで、複数回繰り返す。TEでは、多点電極を用いた多層からの局所場電位LFPや単一細胞同時記録を行い、出来るだけ多くの電気信号の記録に努める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
各試薬メーカーが定期的に開催するキャンペーン割引を優先的に使用したため、割引分が余剰分として計上された。
|
次年度使用額の使用計画 |
サル手術の際に用いる消耗品として使用予定。
|