研究実績の概要 |
ストレス顆粒は、ストレス下で、RNAとRNA結合タンパク質によって細胞質に形成され、異常なタンパク質の集積を防ぐ。本研究では、多系統萎縮症におけるストレス顆粒の組織分布、細胞内局在、さらに酸化ストレスの負荷あるいは減弱時のストレス顆粒の動態を調べることにより、αシヌクレインの封入体形成過程、神経細胞死との関連を明らかにし、多系統萎縮症におけるストレス顆粒の形成機構と意義を解明することを目的とした。本年度は、ヒト剖検組織におけるストレス顆粒の組織分布および細胞内局在を明らかにするために、多系統萎縮症患者ならびに正常対照の剖検脳組織を検討した。その結果、①ストレス顆粒マーカータンパク質(HuR, Staufen,TIA-1)の発現が、多系統萎縮症患者の橋核ニューロンでは、正常対照のそれよりも減弱していること、②ストレス顆粒マーカータンパク質の一部(eIF3, PABP1)が、多系統萎縮症のオリゴデンドログリアの細胞質内封入体(GCI)ならびに神経細胞の細胞質内封入体(NCI)に局在していることなどがわかった。これらの所見は、多系統萎縮症の病態メカニズムにおいてストレス顆粒が重要な役割をはたしていることを示している。また、オリゴデンドログリアに限局してヒト型αシヌクレインを過剰発現するcre-loxpシステムを利用したコンディショナルトランスジェニックマウスを作出し、行動学的試験を実施した。この結果について現在解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
オリゴデンドログリアに限局してヒト型αシヌクレインを過剰発現するcre-loxpシステムを利用したコンディショナルトランスジェニックマウスを用いて、生化学的解析、in situ hybridization (ISH)法によるmRNA発現解析、ならびに免疫組織化学的解析を実施する。 生化学的解析:生後2,4,8,16,32週に、頸椎脱臼後、脳を取り出し、サンプルを抽出してαシヌクレイン、SGマーカー(eIF3, eIF4G, G3BP1, HuR, PABP-1, Staufen, TIA-1, TIAR, XRN1)をウエスタンブロットで解析する。 ISH法によるmRNA発現解析:生後2,4,8,16,32週に、頸椎脱臼後、脳を取り出し、凍結切片を作成後、αシヌクレイン、SGマーカーのcDNAオリゴヌクレオチドを用いたISH法によりmRNA発現分布を明らかにする。 免疫組織化学的解析:生後2,4,8,16,32週に、4%パラフォルムアルデヒドで経心的灌流固定を行い、脳脊髄を採取し通常の光顕観察に加え、αシヌクレインならびにSGマーカー免疫染色を行いバーチャルスライドシステム及び電子顕微鏡で観察し、組織内分布並びに細胞内局在を明らかにする。
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