研究課題/領域番号 |
26430052
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
豊島 靖子 新潟大学, 脳研究所, 准教授 (20334675)
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研究分担者 |
池内 健 新潟大学, 脳研究所, 教授 (20372469)
他田 真理 新潟大学, 脳研究所, 助教 (30646394)
高橋 均 新潟大学, 脳研究所, 教授 (90206839)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | タウオパチー / タウオリゴマー / globular glial tauopathy / 進行性核上性麻痺 / アストロサイト |
研究実績の概要 |
近年、前頭-側頭型認知症や上位・下位運動ニューロン症状を呈し、グリア細胞優位にタウ蛋白が蓄積する特異な4-リピートタウオパチーの存在が認識されるようになり、そのような疾患群はglobular glial tauopathy (GGT)としてまとめられた。この疾患は臨床病理学的に興味深い所見を呈すると共に、神経変性疾患におけるグリア細胞の影響を考える上で重要な位置づけにある。この新しい疾患概念にあてはまる自験例を病理組織学的、生化学的に検討し、グリア細胞に蓄積するタウ蛋白の特性、およびそのグリア内異常蓄積により、どのようなメカニズムで神経細胞組織が障害されるようになるのかを明らかにすることが本研究の目的である。 平成26年度の計画は、当教室の有するリソースの中からGGT症例をピックアップすることと、アストロサイトに蓄積しているタウ蛋白の特性の解析をすることである。これまで明らかになったことは以下の点である。 1)新たな症例追加。26年度に新たに1例GGT症例を経験し、さらにこれまで診断がつかなかったタウオパチーのうち、1症例がGGTに該当することを明らかにした。 2)市販のタウオリゴマー抗体(T22)を使用し、GGT症例と他のタウオパチーを免疫染色で比較した。その結果、タウオリゴマーはGGT症例でより多くの構造物を染めだし、他のタウオパチーとは差が認められることが明らかになった。 3)凍結脳組織から抽出したタンパクの可溶分画でT22を用いてWestern blottingを行ったところ、GGT症例ではタウのtrimer が他の疾患よりも多く含まれていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)GGT症例の追加(新規1例、再検討1例)によって、GGTは6例となり、タイプの違うものの検討など、より臨床病理学的に詳細な検討ができている。 2)タウオリゴマーの市販抗体が入手できたため、免疫染色やWestern blottingを予想よりも早く進めることができた。GGT症例で嗜銀性を持たないアストロサイトのタウはタウオリゴマーであることが示唆され、これは新しい知見であり意義が大きい。我々は他の疾患の検討を進め、Gallyas-Braak 鍍銀法とタウオリゴマー免疫染色がちょうど裏表の関係にあることを確認した。 3)TDP-43 病理を伴った1症例について症例報告を行った。アストロサイトの形態が疾患を分類するうえで重要であるという観点からPSPとPNLAを検討し、専門誌に報告した。
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今後の研究の推進方策 |
グリアの病理から組織障害にいたる過程の解明:GGTの多くは運動野に変性を伴うことが知られている。AhmedらはALS関連疾患のようにfronto-temporal lober degeneration (FTLD) からmotor neuron disease (MND) まで連続した疾患概念を提唱している。運動ニューロン疾患であるALSに関係した実験では、変異TDP-43(M337V)を発現させたラット脳のスライスカルチャーの培養液中に、反応性アストロサイトから神経毒性を持つ物質が放出され、運動神経を障害することが報告されている。また別の実験ではアストロサイトは変異TDP-43発現神経細胞に保護的に作用する、という結果も報告されている。タウが異常に蓄積したアストロサイトは神経毒性 (特に運動ニューロンに対して) を持つのかについて検討する。神経毒性を持つ物質のひとつ、lipocalin 2 (lcn2)について調べる。まずは、タウ蓄積アストロサイトは同じようにlcn2 を発現するかを調べる。対象はGGTと同じようにアストロサイトにタウが蓄積するPSPとCBD症例を用い、それぞれの運動野皮質から凍結組織を採取し、抗ヒト lcn2 抗体でWBを行う。これらの疾患は、いずれも運動野に変性を伴い、タウの蓄積のない反応性アストロサイトも存在する。したがって、WBでバンドの出現を確認後、Lcn2 とAT-8, およびGFAP の多重免疫染色を行い、lcn2が主にどの細胞に由来するかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初抗体を作製して免疫染色やWestern blottingを行う予定であったが、市販抗体が入手できたため、抗体作成にかかる費用が浮いた形になった。人件費、謝金を見込んでいたが、本年度は使用しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
主に消耗品の購入に使用する予定である。培養系の実験を考えているため、本年度よりも消耗品の購入が増えることが予想される。
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