研究課題/領域番号 |
26430053
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
櫻井 英俊 京都大学, iPS細胞研究所, 准教授 (80528745)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 疾患特異的iPS細胞 / 筋強直性ジストロフィー / CTGリピート / クロマチン構造 |
研究実績の概要 |
本年度は、筋強直性ジストロフィー(DM1)患者1例からのiPS細胞2クローンと、健常者由来iPS細胞2クローンについて、心筋細胞への分化時におけるエピジェネティックな変化を解析した。方法としては、計画書の段階ではCHIP-seqにてヒストン修飾を解析する予定であった。しかし当研究室で実験系の立ち上げを行ったが、ノイズが多く解析が困難を極めたため断念した。そこで代替案として、高次クロマチンの構造がヘテロクロマチンであるのかユークロマチンであるのかを解析するATAC-seqという研究手法を用いて、クロマチン構造を網羅的に解析した。 まず得られたリード数のクオリティチェックにより、患者由来心筋の1クローンにおいて、十分なリード数が得られなかったためデータ解析は行わず、健常2クローンと患者1クローンの比較解析を行った。その結果、ユークロマチン状態を意味するATACピークの総数が、健常と比べ患者で約1/2となっていることが分かり、DM1患者由来細胞で遺伝子発現が全体に抑制されている可能性が示唆された。ピークが下がっている遺伝子領域は中胚葉発生や心臓の形成にかかわる遺伝子群が含まれ、CTGリピート伸長あるいはスプライシング異常が心筋文化に影響を及ぼす可能性が明らかとなった。さらにCTGリピート部位付近のゲノムにおけるクロマチン構造を詳細に解析すると、DMPK遺伝子のCTCF領域近傍およびSIX5のプロモーター領域でATACピークが有意に減弱していた。これらは既報においてゲノムDNAのメチル化促進が報告されている領域であり、DM1においてCTGリピート伸長そのものが近傍領域の転写抑制に関わる機構の存在が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り27年度以降に実施するエピゲノム解析を中心に実施し、ChiP-seqは断念したが代替のATACseqを実施することで、DM1患者由来心筋細胞でのクロマチン構造の異常という新しいフェノタイプを同定した。また網羅的遺伝子発現解析としてRNAseqも実施したが、3月末時点では解析が終了しておらず、リピート伸長に関わる因子の同定は28年度に行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
RNAseq解析の結果を待って、リピート伸長に関わる因子の同定を目指す。DNA修復関連分子のうちDM1で発現が上昇するものについてノックダウンを行い、継代培養時のCTGリピート伸長が抑制されるかどうかを解析する。 また当初の計画書には記載がないが、エピジェネティックな異常が心筋の分化異常を引き起こしている可能性も示唆されるため、RNAseq解析ではリピート伸長因子だけでなく、心筋分化に関わる因子の発現変化およびスプライシング異常も併せて解析する。これまで先天性DM1患者で心筋症が認められるという報告はあるが、発生時期の分化異常である可能性については、学会レベルで最近報告があるレベルでいまだ不明な点が多く、今後細胞モデルでの解析が、先天性DM1の心筋症発症のメカニズム解明にも役立つ可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が順調に進行し実験結果が良好であったため、消耗品の購入費として来年度に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品の購入に充当する。
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