研究課題
アルツハイマー病(AD)では、脳内アミロイドβ蛋白(Aβ)蓄積の機構の解明が重要な課題となっている。高血圧症、特に中年期の高血圧症はADの危険因子とされており、臨床疫学研究では降圧剤投与が認知障害の発症を抑制という結果が報告されている。しかし、一部の降圧剤は、ADの発症を増悪するとの報告もある。我々は、新たにアンギオテンシン受容体タイプIa (AT1a) の欠損は、脳内Aβ蓄積を顕著に抑制することを明らかにしている。前年度は、AT1aノックアウトマウス脳のAβ沈着を解析した。その結果、AT1aノックアウトマウス脳では、Aβ沈着が著しく減少していることが明らかとなった。さらに、AT1a欠失細胞を用いてAβ産生能を解析した結果、AT1a欠失細胞では、Aβ産生が著しく低下していることが明らかとなった。したがって、脳内Aβ沈着の減少は、AT1a欠失によってAβ産生能が低下したためと考えられた。次に、Aβ産生低下の機構を明らかにするため、Aβ産生に必要なγセクレターゼ活性を担うプレセニリン (PS) 複合体 (PS複合体) の解析を行った。PS複合体は、少なくとも4つの膜蛋白 [PS、ニカストリン (NCT)、APH-1、PEN-2]からなるが、興味深いことに、AT1a欠失脳や欠失細胞では、APH-1やPEN-2の量が減少し、γセクレターゼの量が減少していることが明らかとなった。これらの結果は、AT1aがγセクレターゼ産生を制御し、Aβ産生量を制御していると考えられた。また、AT1aは、PI3kinase経路を介してAβ産生量を制御していることも明らかとなった。以上の結果を、論文として発表した (Liu et al., Sci. Rep., 5:12059, 2015)。
2: おおむね順調に進展している
我々は、アンギオテンシン受容体タイプIa (AT1a) の欠損は、脳内Aβ蓄積を顕著に阻害することを明らかにしている。昨年度の研究は、AT1aの欠損がAβの産生を抑制する分子機序を明らかにすることが目的であった。その結果、AT1aがγセクレターゼ産生を制御し、Aβ産生量を制御していることを明らかにした。また、AT1aは、PI3kinase経路を介してAβ産生量を制御していることも明らかとなった。
今後、さらに、AT1aによるアミロイド蛋白産生制御の詳細な分子機構を解析し、中年期高血圧とAD発症との関連を明らかにしていく予定である。具体的には、アンギオテンシン受容体阻害薬(ARB) が脳内のAβ沈着を減らすか否かを明らかにする。臨床に使用されている約十種類のARBをhAPP/AgtrIa+/+、hAPP/AgtrIa+/-ならびにhAPP/AgtrIa-/-マウス胎児線維芽細胞に添加し、Aβ40、Aβ42およびAβ43の産生が変化するか否かを明らかにする。市販のAβ ELISA キットで定量する。効果のあるARBを選び、ADモデルマウスに投与する予定である。
次年度は、市販されている高価なELISAキットを使用する予定のため、予算を次年度に配分した。
ARBによるAβ産生への影響を検討するため、次年度使用額をAβELISAキットを購入する予定である。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Sci. Rep.
巻: 5 ページ: 12059
10.1038/srep12059