研究課題/領域番号 |
26430059
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
高杉 展正 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (60436590)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / アミロイドβ / スフィンゴシンキナーゼ / スフィンゴシン-1-リン酸 / アストロサイト |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)発症のメカニズムとして、脳内にAmyloid-β(Aβ)が蓄積・凝集することが原因であるとするアミロイド仮説が現在有力視されている。我々は以前にsphingolipidの一つであり中枢で神経炎症反応を制御するSphingosine-1-phosphate(S1P)に注目し、S1Pの産生酵素であるSphingosine kinase 2 (SphK2)の活性がAD患者脳で増加し、SphK2活性化はAβ産生の増加を誘導する事を報告している。 一方で、SphK2/S1Pシグナルがどのように中枢性の免疫機能制御に関わっているかについては不明であった。 近年、核内受容、LXR/RXRに対するアゴニストはADリスクファクターであるAPOEの発現を誘導し、モデル動物系においてAD治療効果を示す事が報告されている。 我々はアストロサイト由来培養細胞を用い、SphK2の活性はLXR/RXRアゴニストによるAPOEの発現誘導を制御していることを見出した。また、同様にLXR/RXRアゴニストにより発現誘導されるABCA1については影響せず、APOEに特異的な制御機構が存在し、SphK2/S1Pシグナルはグリア細胞の活性制御を介してAβ分解を制御する可能性を見出した。 これらの結果からSphK2/S1Pシグナルの制御、特にSphK2阻害剤はAβの産生/代謝双方を同時に制御できる可能性が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、我々はアストロサイト由来培養細胞を用い、Sphk2の過剰発現、ノックダウン、及びSphK2阻害剤であるABC294640処理により、LXR/RXRアゴニストによるAPOE発現誘導がどのように変化するか検討を行った。その結果、SphK2/S1PシグナルがLXR/RXRアゴニストによるAPOE発現誘導を転写レベルで負に制御していることが明らかとなった。同様にLXR/RXRアゴニストにより誘導されるABCA1についてはSphK2/S1Pシグナルは影響せず、APOE特異的な発現誘導系が存在することが示唆された。またAPOEの発現はアストロサイトへのAβの取り込みを促進するため、SphK2阻害剤がAβ産生/代謝同時制御を行える可能性が示唆されている。本年度、順天堂大学より岡山大学に異動したため、計画していた実験系の再構築に時間を要した。一方でCRISPR/Cas9法によるゲノム改変の結果、SphK2、APOEのノックアウト培養細胞系を確立する事に成功しており、また新たにSphK2/S1Pシグナルに関連する脂質運搬タンパク質について解析を行った所、ADに関わる輸送障害を誘引することを明らかにしており、概ね順調に進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後,作成したSphK2、APOEノックアウトアストロサイト細胞を用い、Aβ代謝制御への影響を解析する。また、アストロサイト初代培養細胞系、および海馬スライス培養系を用い、よりin vivoに近い系を用いて、仮説の確認を行っていき、将来的にはモデル動物を用いた検討につなげる。SphK2/S1Pがエピジェネティックな遺伝子発現制御系に関わっている事が予想されるため、核内でSphK2、S1Pが結合する因子を、GST融合SphK2、及びS1P結合セファロースビーズにより同定していく。 また、S1P受容体などSphK2/S1P関連タンパク質のクローニング、機能解析を進めていき、Aβの産生、代謝に関わる因子を新たに同定していく。 本年度同定した脂質運搬タンパク質の活性を、既知の薬剤で改善できるか検討し、AD治療ターゲットとなるか検討する。
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