研究課題
妊娠母体の炎症が胎仔脳を炎症性プロフィールに変動する機構として、胎仔脳頭部間葉に存在するマクロファージ前駆体が炎症性に変化し、炎症性プロフィールを保持したまま脳に進入して反応性の高いミクログリアに分化することを検証したい。本年度はその前段階として、成体マウスにおいて、全身の炎症が脳のサイトカインプロフィールを変動する機構を調べた。成体マウスに細菌毒素のLPSを腹腔投与し、その1, 4, 24時間後に脾臓と海馬を回収しマルチプレックスアッセイを行い、15種類のサイトカインを一斉定量した。その結果、脾臓では投与1-4時間後にすべてのサイトカインが有意に増加した。海馬では10種類の細胞が4-24時間に増加したが、5種類のサイトカインは変動しなかった。免疫染色により、海馬で増加するサイトカインの発現細胞を調べた。その結果、投与4時間後に海馬で増加するサイトカインは、血管内皮細胞、髄膜・脈絡叢間質の間葉系細胞、脈絡叢上皮細胞が発現していた。それらのサイトカインの受容体はすべてアストロサイトが発現しており、特に、血管周囲および髄膜下のエンドフィートに強発現していた。投与24時間後に増加するサイトカインはアストロサイトが発現した。これらの結果から、全身の炎症に応答してまず血管内皮細胞、髄膜・脈絡叢間質の間葉系細胞、脈絡叢上皮細胞といった、脳と免疫系の境界領域に存在する細胞群が活性化し、それがアストロサイトのエンドフィートで受容され、アストロサイトの活性化を引き起こして脳内のサイトカインプロフィールを変動することが推測された。
3: やや遅れている
妊娠母体の炎症が胎仔脳を炎症性プロフィールに変動する機構として、母体の免疫系、胎盤、胎仔の免疫系、胎仔の脳というルートがあると考えた。このルートの最後の過程である「免疫系から脳へとサイトカインプロフィールの変動が伝わる」という部分は、胎仔のみならず成体でも起こりうる過程である。そこでまずは、成体マウスを用いて、全身の免疫応答がどのようにして脳に伝達されるかについて詳細に調べることにした。本年度は成体マウスを用いた実験を行ったため、当初の実験計画はやや遅れることとなった。
全身の免疫応答が脳に伝達される過程を調べた結果、髄膜・脈絡叢・血管に存在する細胞群が、全身から脳へと炎症応答を伝達する主体であることがわかった。しかしながら、嗅球へはこれらの細胞群を介さずに炎症応答が伝達される可能性が考えられた。すなわち、全身から脳へと炎症応答が伝達されるルートとして、嗅覚系もひとつのルートになると考えられる。そこで次は、成体マウスを用いて嗅覚系を介する脳への炎症応答の伝達を調べることにする。妊娠母体から胎仔脳という長い伝達経路を調べる前に、全身から脳への考えられる伝達機構をすべて調べておくことはきわめて重要である。したがって、来年度は片側鼻腔にLPSを投与し(5マイクロリットル, 10マイクログラム)鼻腔に炎症を起こし、嗅球に炎症応答が伝達されることを確かめ、どの細胞が炎症応答の伝達の主体かについて解析する。
予定より試薬が安く購入できたため。
抗体等の試薬の購入を予定している。
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