研究実績の概要 |
昨年度までの結果から、髄膜・脈絡叢・血管周囲腔に存在する細胞群が、末梢の炎症応答を脳に伝達する主体であることがわかった。しかしながら、嗅球にはこれらのルートを介さずに炎症応答が伝達される可能性が考えられた。そこで本年度は、成体マウスの鼻腔にLPSを片側投与し鼻腔に炎症を起こした後、嗅球にそれがどのように伝達されるかを調べた。 成体マウスの片側鼻腔にLPS(1mg/mL)あるいは生理食塩水を10μLずつ隔日で投与し、1, 3, 6, 9回投与後、最後の投与から3日目にマウスを固定し解析した。その結果、嗅上皮には投与1回後に多くの好中球や単球が集積し、単球は炎症性サイトカインIL-1bを高発現した。嗅神経が発現する様々なタンパクがLPS投与側でのみ発現が減少し、嗅神経が傷害されていることが示された。投与回数が増えるにつれ、嗅神経の傷害はより拡大した。嗅球には、LPSを1回投与した後に好中球や単球の侵入が見られ、局所的に脳炎が起こることが示された。また、嗅球内のミクログリアやアストロサイトはLPS投与側でのみ活性化した。糸球体付近のチロシン水酸化酵素の発現は、LPS投与6回後から減少し9回投与後には有意に発現が減少したことから、嗅球の傍糸球体細胞のうち、チロシン水酸化酵素陽性細胞が傷害を受けたことが考えられた。さらに、外網状層におけるvGLUT1の発現がLPS投与9回後に有意に減少したことから、ここに存在する房飾細胞が傷害を受けることが示された。 以上の結果より、鼻腔で生じた炎症は嗅球に伝達され、嗅球の神経細胞を損傷させたといえる。このことは、鼻腔を介して末梢の炎症が脳に伝達されたことを示しており、嗅覚系独自の炎症伝達経路であると考えられた。
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