研究課題/領域番号 |
26430064
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
若林 朋子 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20530330)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 神経発生 |
研究実績の概要 |
CLAC-P/collagen XXVの神経筋発生における役割の解明を目的に、作製が進んでいた運動ニューロン特異的(Hb9-Cre)および骨格筋特異的(HSA-Cre)KOマウスの横隔神経の軸索伸長と神経筋接合部形成、運動ニューロン数について、発生期の日齢を追って解析した。運動ニューロン特異的欠損では正常な発生を示した一方、骨格筋特異的欠損では全身性のKOと同じく、筋内の軸索伸長障害と脊髄全レベルにおいて9割程度の運動ニューロン脱落が認められた。神経系特異的(Nestin-Cre)KOマウスについても正常に出生・発育し、運動機能異常を認めなかった。以上より、骨格筋由来のCLAC-Pが発生期の神経軸索伸長に必須であることが示された。 運動ニューロン軸索発達に対する分子の影響をin vitroで評価するため、Hb9-GFPマウス胎児の脊髄前角explantとHEK293細胞の共培養系を確立した。このHEK293細胞に対しCLAC-Pを発現した結果、GFP陽性の運動ニューロン軸索がCLAC-P発現細胞周囲に誘因され、結合することが明らかとなった。 CLAC-Pの発現制御メカニズム解明のため、スプライシングバリアントの解析を行った。その結果、成体脳および胎児脊髄では同じバリアントが見られたのに対し、胎生期の骨格筋では特異的なエクソンをもつアイソフォームの発現が多数認められ、骨格筋特異的な機能を裏付けた。更に、成体マウス前脛骨筋にcardiotoxinを注入して筋損傷を誘発し、筋再生過程におけるmRNA発現を検討した結果、通常CLAC-Pの発現がほぼ認められない成体の筋肉において、損傷後一過性にCLAC-Pの発現が上昇することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究計画は大きく①Col25a1 cKOマウスの解析、②in vitroでの運動ニューロン軸索伸長の評価、③骨格筋における発現解析、④シナプスにおける機能の評価である。このうち、①については脊髄、中枢神経系、骨格筋特異的cKOの表現型解析を進めた。②については、CLAC-Pの軸索誘因機能を再現することに成功し、各種条件での実験を進める段階に至っている。③では、骨格筋特異的発現パターンおよび筋再生過程における一過性発現を見出した。④に関しては、RPTPとCLAC-Pとの結合を複数の実験系を用いて検討している段階であるが、細胞表面への結合実験では両者の結合を示したものの、初代培養神経細胞を用いたシナプス機能に関連する評価については、実験系の最適化を行っている段階にある。以上の理由から、交付申請時の研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究のおおむね順調な進捗を受け、来年度以降も交付申請時に予定していた内容どおりに進めて行く。 具体的には、新たに薬剤誘導性のKOマウスを用いた解析を行う。筋再生時における一過性発現の意義を検討するため、成体でCLAC-P KOを誘導し、筋損傷時の筋再生および神経の再支配への影響について評価を行う。また、発生時期を追ってCLAC-Pの欠損を誘導し、骨格筋への軸索侵入以降の過程におけるCLAC-Pの役割、特に神経筋接合部形成・維持についても評価する。また、中枢神経系特異的KOマウスを利用し、網膜下流細胞における機能の解析およびADモデルマウスとの交配によるアミロイド病理形成に対する影響についても、解析を進める。 更に、生理機能に関する分子レベルでの解析のため、樹立した前角explantの共培養実験系を利用し、機能部位の解析、CLAC-PとRPTPとの機能的相互作用や、CLAC-P以外の膜結合型コラーゲンの機能について、検討を進める。 シナプスにおける機能については、既存の培養神経細胞を用いたシナプス誘導実験系を用いて評価することに加え、タグ導入したCLAC-Pを用いた神経細胞における結合分子の探索を行う。またinducibleトランスジェニックマウスの作出と、時期・組織特異的なCLAC-P結合分子の網羅的探索を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度主に行った検討として、組織特異的cKOマウスについては、研究開始時までにおおむね作出が完了しており、組織の解析が中心となった。またCLAC-PのmRNA発現解析については、基礎的知見を得るべく、今年度は複雑な交配を必要としない野生型マウスを用いた内因性の解析を進めた。一方、新たに解析を行うマウスの系統として、薬剤誘導性のcKOおよびCre誘導性のトランスジェニックマウスを予定しているが、これらの作出・検討については、次年度に重点的に行うこととした。マウスの作出、交配、飼育が比較的大規模になると見込まれること、その解析にあたり、結合分子の網羅的探索など、まとまった消耗品類の支出が見込まれるとの理由から、一部消耗品費を次年度使用額とすることが、課題遂行上適当と考えられた。
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次年度使用額の使用計画 |
R26-CreERTとCLAC-P floxマウスとの交配により、新たに薬剤誘導性のCLAC-P KOマウスを作出する。始めに薬剤誘導によるCre誘導ならびに遺伝子ノックアウトの条件検討を、成体ならびに胎児において行う。次いで成体でCLAC-P KOの誘導による筋損傷時の筋再生・神経支配における一過性発現の意義を検討するとともに、発生時期を追ってCLAC-Pの欠損を誘導し、骨格筋への軸索侵入以降の過程におけるCLAC-Pの役割、特に神経筋接合部形成・維持についても評価する。 シナプスにおける機能解明のため、inducibleトランスジェニックマウスの作出と、時期・組織特異的なCLAC-P結合分子の網羅的探索を進める。
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