研究課題
2006年、東京医科歯科大学の岡澤教授らは転写抑制により起こる緩慢な神経細胞死(transcriptional repression-induced atypical death, TRIAD)を見出し、この細胞死モデルで神経変性疾患の細胞死を説明できる可能性があることを報告した(Hoshino et al., JCB 2006)。ポリグルタミン病においては病原タンパク(polyQタンパク)がRNA polymerase IIを阻害する(Okazawa et al., 2002)。TRIADはRNA polymerase IIの特異的阻害剤、α-amanitinにより誘導される緩慢な細胞死であり、神経変性疾患の細胞死と非常に共通する特徴を備えている(概念図)。また、TRIADはアポトーシスやオートファジー細胞死とは形態的・分子的に異なるため、第3の細胞死として定義されている。本研究計画の目的はこのTRIADの分子基盤を解明することである。申請者らはこれまで新規モデルショウジョウバエを作成することで、神経変性疾患の分子メカニズムを明らかにしてきた(Tamura et al., PLoS ONE 2009, J. Neurosci. 2010 etc.)。さらに、α-amanitinがin vivo(ショウジョウバエの個体)においてもTRIADと形態的に類似した神経細胞死(dTRIAD)を引き起こすことを明らかにしている(図1)。そこで、ショウジョウバエの強力な遺伝学を活かしdTRIADを抑制できる遺伝子をスクリーニングする計画を思い立った。申請者は近年、ショウジョウバエin vivoスクリーニングから得られた結果をネットワーク的に理解するための新たな手法を提示した(Tamura et al., Hum. Mol. Genet. 2013)。そこで、本研究計画ではこの手法を応用しようと考えている。
2: おおむね順調に進展している
すでに、dTRIADを抑制できる遺伝子のin vivoスクリーニングを完了した。ショウジョウバエを用いたRNAiライブラリーのin vivo スクリーニングを行い、dTRIADの分子経路で働く遺伝子を約30個特定している。さらに、 スクリーニングの結果をもとに、実際にもっとも注目するべき遺伝子は何か?それぞれの細胞死を結びつけることの出来る遺伝子は何か?遺伝子ネットワークをバイオインフォマティクス的に解析することで推定した。IPA (Ingenuity)は公的データベースを利用し、分子間の結合をネットワーク的に推定するソフトウェアである。IPAを用いることにより、スクリーニング結果をから“分子間ネットワーク”を構成する。ネットワーク図を構成することで、どの遺伝子(または遺伝子同士の結合)の重要度が高いか見積もっている。また、未知の遺伝子・遺伝子間相互作用を発見し、今後はこれらの遺伝子の重要性についてネットワーク的・生化学的・遺伝学的な手法により実証する。
さらに、ネットワーク解析を行うのみにとどまらず、この結果を実験的に実証していく。どのような機能を持つ遺伝子が見つかるかにより、以降の解析は異なったものになるが、まずは以下の3点について解析する。①哺乳類ニューロンのTRIADにおいても効果があるか明らかにする。ショウジョウバエで解明された現象がマウスやラットでも共通であれば、治療に対して大きな期待が持てる。②その遺伝子の阻害剤がTRIADを抑制できるか示す。効果のある薬剤が見つかれば、即に治療薬候補として考えることが出来る。③加えて、生化学的(WBやIP、免疫組織化学)、遺伝学的(二重変異体による上下関係の推定)な経路の検証を行う。実証実験について、特に注目する遺伝子に治療効果が得られなかった場合には、ショウジョウバエと哺乳類でどの遺伝子が共通に効果があるか網羅的に解析する。これにより、種間で保存されたTRIADの経路を明確にし、TRIADの進化的な意義についても解明できる可能性がある。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (9件)
PLoS One.
巻: 9(12) ページ: e116567.
10.1371/journal.pone.0116567.
医学のあゆみ
巻: 251巻5号 ページ: 449-454