プログラニュリン(PGRN)が脳梗塞に対する新機能保護薬になる可能性を考え,(a)PGRNノックアウトマウスの局所脳虚血モデル(in vivo),およびその初代培養細胞(神経細胞,血管内皮細胞,ミクログリア)の脱酸素・脱グルコース(OGD)モデル(in vitro)を用いて,PGRNが 神経細胞生存,血液脳関門機能,炎症制御に果たす役割や機序を明らかにすること,(b)上記のin vivoおよびin vitroモデルにおいて,組み換えPGRNの投与が局所脳虚血やOGD負荷に対して保護的に作用するか,神経細胞・血液脳関門の保護,炎症制御の観点から明らかにすること, (c)PGRNの病態への関与を検証する橋渡し研究として,ヒト脳梗塞患者のtPA療法前後の血液を試料としたPGRNと炎症性サイトカイン定量を行い,臨床試験の実現へつなげることを目的とした検討を行った. この結果,(a)PGRNノックアウトマウスに対する一過性局所脳虚血を負荷したところ,脳梗塞サイズのおよび脳浮腫サイズが野生型と比較して有意に大きいこと,(b)PGRNノックアウトマウス由来の初代培養ミクログリアに対してOGD負荷を行い,IL-10のmRNAの低酸素・低糖刺激後の発現が,野生型と比較して有意に低下し,PGRNがIL-10を介した抗炎症作用を有すること(c)ラット脳塞栓モデルにおいてtPAと組み換えマウスPGRNの経静脈的に投与は,脳梗塞・脳浮腫サイズ,脳出血量,および機能・生命予後のすべての項目を,tPAと偽薬の併用と比較して有意に改善することを示した.これまでの予備実験の結果と合わせ,PGRNはTDP43を介した神経保護作用,VEGF抑制を介した血管保護作用,IL-10を介した抗炎症作用を併せ持つ,これまでにない脳保護薬になる可能性が示唆された.
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