研究課題
帯状疱疹後神経痛や三叉神経痛などの神経障害性疼痛は,その激しい痛みが慢性化することで生活の質(QOL)は著しく低下し,痛みが原因でうつ症状に陥る場合もある。現在のところ,このような慢性疼痛に有効な鎮痛薬は少なく,痛みが慢性化するメカニズムは不明な点が多い。申請者のグループは最近,PACAP特異的受容体PAC1受容体に選択的なアゴニストMaxadilanをマウス髄腔内に注射すると,長期の疼痛様反応を誘発すること新しく見出した。すなわち,脊髄PAC1受容体シグナリングが痛みの慢性化に重要な役割を果たしていることが示唆される。本研究では,このMaxadilan誘導性の慢性疼痛モデルを用い,痛みが慢性化するメカニズムの解明を目指した。まず始めに,Maxadilan髄腔内投与マウスの脊髄からRNAを抽出し,GeneChipマイクロアレイシステムを用いて網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果,2倍以上に変動する遺伝子が490個(発現上昇:297遺伝子,減少:193遺伝子)同定された。 2倍以上に発現が上昇した遺伝子の中で,2遺伝子(分子A:9.3倍,分子B:4.8倍)に着目し,研究を進めた。まず分子Aのリコンビナントタンパク質を作製し,マウス脊髄くも膜下腔内に注射したところ,少なくとも3日間持続する機械的アロディニア反応を誘発することを見出した。脊髄後角では,痛みに関与するケモカインの遺伝子発現が上昇することも見出した。現在,この分子Aからのシグナルをターゲットとした創薬を進めている。分子Bに関しては,その阻害剤を入手し,CFA炎症性モデルマウスの脊髄くも膜下腔内に注射したところ,疼痛反応を増強した。分子Bは内在性鎮痛機構に重要な分子と考えられ,現在この分子Bの活性を増強する化合物の開発に取り組んでいる。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り研究は進んでおり,「おおむね順調に進展している。」を選択した。
Maxadilan髄腔内投与マウスの脊髄からRNAを抽出し,GeneChipマイクロアレイシステムを用いて網羅的遺伝子発現解析を行い,変動した遺伝子と疼痛との関連性を調べる研究を遂行した。9.3倍に変動した分子Aは,そのタンパクが機械的アロディニアを誘発することを初めて見出しており,この分子が結合するタンパク(受容体)の同定と,それに対する阻害剤のデザイン・創薬・薬理学的評価を進めている。また4.8倍に変動した分子Bは内在性に痛みを抑制するはたらきを有することが示唆されたため,この分子Bの活性を増強するような化合物のデザイン・創薬・薬理学的評価を行う予定である。そのほかにも多く発現が変動した遺伝子を同定しており,随時これら遺伝子と疼痛との関連性を追求していく予定である。
研究計画はおおむね順調に進展したが,1,169円の残額が生じた。当該残額では,当研究の遂行に必要な遺伝子関連試薬や抗体等を購入するのには不十分であるため,来年度への繰越を決定した。
平成27年度に繰越し,必要な試薬等の購入に充てる予定である。
すべて 2015
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J Neurosci
巻: 35 (14) ページ: 5606-5624