本研究では,痛み慢性化機構の解明を目指し,Maxadilan投与マウスの脊髄における遺伝子発現変動を検討し,2.5~9.3倍に発現が上昇した4つの分子(A~D)について解析を進めてきた。 9.3倍に発現が上昇した分子Aに関しては,平成27年度の研究でグリア細胞モデルであるC6グリオーマ細胞において,ケモカイン(CCL2)の発現を誘導することを見出した。平成28年度は,そのメカニズムについて詳細に検討した。分子Aはその分子内に4つの機能ドメイン(①~④)を有し,様々な生理機能を発揮する。そこで,ケモカインCCL2の発現誘導に重要なドメインを探索する目的で,様々なドメイン欠損タンパクを作製し,CCL2発現誘導に及ぼす効果を検討した。その結果,ドメイン①(N末)およびドメイン④(C末)を欠損してもCCL2の発現は誘導されたが,中央ドメイン(ドメイン②および③)の欠損により一部CCL2の発現が抑制された。したがってCCL2の発現誘導には分子Aの内部ドメインが重要であることを明らかにした。現在,これら欠損タンパクをマウスの髄腔内に投与し,疼痛が誘導されるかどうか検討中である。 また平成28年度は核内受容体である分子Dについて,そのアンタゴニストの創製を行った。インシリコスクリーニングにより同定された10個の候補化合物について,Lucレポーターアッセイによりスクリーニングし,2個の化合物がアンタゴニストとしての特性を有することを明らかにした。この化合物をマウスの髄腔内に投与したところ,PACAPによって誘導させる長期アロディニア反応の発症を抑制することを見出した。この化合物は新規の鎮痛薬となる可能性があり,現在,誘導体化合物の合成と更なる行動薬理実験を遂行中である。
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