研究課題
本研究は、光源にLEDを用いその光刺激から惹起されるさまざまな生物学的影響を分子生物学的手法により明らかにすることを目的としている。特に青色LEDは、赤崎、天野、中村の三名の博士らにより研究開発され2014年ノーベル物理学賞を受賞し、その利点から多岐にわたる分野に応用されている。しかしながらその反面、未だ医学的な安全性が証明されたわけではない。紫外線のようにDNAの損傷や免疫抑制といった多くの報告はないが、今後エネルギー供給量の減少に伴い従来の光源からよりエネルギー変換効率の良いLED光源へとシフトすることは明らかである。その安全性措置として、LED光源による生物学的影響の解明が急務である。そこで我々は、LED光源曝露の対象としてモデル生物である線虫C. elegansを用いた。C. elegansを用いる利点としては発生段階、代謝や神経系など多岐にわたる解析が可能であることがあげられる。また、ライフサイクルが短く遺伝学や逆遺伝学といった遺伝子操作が容易に行えることから他の生物に比べ扱いやすいことも理由の一つである。今回光源に用いたLEDは、中心波長①465nm、②517.5nm、③660nm、④730nm、⑤白色光の5種類を採用し、光源から線虫までの距離を20cm、インキュベーター内部の温度を20℃に設定しC. elegansに約1か月間曝露し続け、光源による寿命に差が生ずるかを調べた。その結果、青色LED(465nm)においては寿命の減少が認められた。緑色(517.5nm)、及び赤色(660nm)の光源ではコントロールとの差はなかった。しかしながら、その他の近赤外光(730nm)と白色光は培地の温度が上昇したため寿命を比較することはできなかった。特に培地内の水分蒸発により、蓋内側に水滴ができ光の散乱もおきていることが推測されるため更なる条件検討が必要とされた。
4: 遅れている
初年度計画していた市販のLED光源発生装置が平成26年4月に急遽販売停止となったため、予定していた装置を購入できない事態となった。そのため特注で光源発生装置を作製依頼できるところを探し、作製に至るまで時間を要したことから研究の開始が大幅に遅れることとなった。予定していた光源発生装置は複数の光源に対し一括して制御可能であったが、特注装置では予算と時間の都合上個々に制御せざるを得ず、その都度光源の設置を余儀なくされたために、複数光源同時解析ができず非常に効率の悪いものとなった。そのため、当初予定していた寿命変異体を含めた寿命解析ならびに、生化学的解析の一つであるストレス因子の測定サンプル回収に時間を要している。しかし、今回作製したLED光源は、3W x 16個の電球を採用したため市販品に比べ非常に高い出力の光を得ることができた。従って、幅広い出力条件下での解析が可能である。
線虫C. elegansのLED照射による寿命解析から、青色LED(465nm)曝露時に寿命が短くなることが判明した。緑色(517.5nm)、及び赤色(660nm)の光源ではそれほど影響がないこと、また近赤外光(730nm)と白色光では温度上昇が認められることから青色LED以外は更なる照射条件の検討が必要であると考える。青色LEDの曝露実験は、昨年度確立した条件で引き続き寿命変異体(daf-2、age-1、daf-16、mev-1等)を用いた解析を行い、統計学的評価ができるように試行回数を増やす。そして、次年度計画にあるマイクロアレイ解析を用いたLED光源曝露下における包括的遺伝子発現解析に移行する。マイクロアレイの結果に基づき定量的RT-PCRによる詳細な発現解析、更には、抗体を入手可能な遺伝子候補についてはウエスタンブロッテイングによるタンパク質レベルの発現解析を行う。最終的には青色LEDの照射による遺伝子発現解析から感受性遺伝子のヒエラルキーを予測し、遺伝子カスケードを明らかにしたい。
助成していただいた研究費は当初の計画通りにほぼ執行できたが、若干の金額を余らせてしまった。これは単純に予算執行システムのチェックし忘れであり、決して意図的なものではない。特注LED光源発生装置が当初予定した市販品の金額よりも比較的安く作製できたことも一つの要因と考えられる。
本年度交付の助成金に関しては計画通り執行する。昨年度の余剰金に関しては、適切に処理するため消耗品の内、プラスチック器具の購入に充てることとする。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件)
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