研究課題/領域番号 |
26430070
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
西村 正樹 滋賀医科大学, 分子神経科学研究センター, 教授 (40322739)
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研究分担者 |
J・P Bellier 滋賀医科大学, 分子神経科学研究センター, 助教 (80346022)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 神経科学 / 認知症 / 神経変性疾患 / アルツハイマー病 / アミロイドβ |
研究実績の概要 |
1. 脳内Aβ産生分泌部位の検討 ー シナプス前部仮説の検証 Aβ産生に関連する分子群として、γセクレターゼ複合体構成タンパク質(Presenilin, Nicastrin, APH-1, PEN-2)およびγセクレターゼ活性制御タンパク質p24a2について脳シナプス局在を検討した。ホモジナイズしたマウス脳組織を用い、超遠心分離によるシナプトゾーム単離やマーカー特異抗体によるシナプス小胞単離などを組み合わせ、種々の細分画化を行った。その結果、これらタンパク質はシナプス前部、とくにアクティブゾーンないしそれに融合したシナプス小胞に濃縮して局在していることが明らかとなった。これは脳実質内細胞間液Aβ濃度が神経活動に依存して変動するという報告に対応する所見として重要である。 2. シナプス部γセクレターゼ複合体の分子修飾の解析 γセクレターゼ複合体構成タンパク質のなかでも触媒部位を提供するPresenilin-1について、脳老化に伴う翻訳後修飾の評価方法の検討を進めている。Presenilin-1全分子のなかで修飾を受ける分子の割合は多くないことが予想され、これを鋭敏かつ的確に評価するには予想以上の困難があることが判明してきた。 3. Aβ産生抑制タンパク質ILEI (ACDP)を標的とするADの予防的治療法の探索 γセクレターゼ複合体に作用する分子として同定した分泌タンパク質ILEIは基質APP-C99の安定性を低下させAβ産生を抑制するが、アルツハイマー病患者の脳ではその発現レベルが減少していること、さらに、マウスにおけるILEIトランクジェニック(Tg)発現は、ADモデル(APP-Tg)マウスの脳アミロイド沈着と記憶障害の出現を抑制することを実験的に証明し論文報告した (Nature Communications 2014)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Presenilin-1の翻訳後修飾の評価方法については、予想外の困難さを認めた一方、Aβ産生に関連する分子群のシナプス前部への局在については、予想を超えて初年度内に成果をまとめられるまでに到達した。 ILEI解析に関しては、ほぼ当初の計画通りに進めることができた。 以上より、達成度は「おおむね順調」と判断された。
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今後の研究の推進方策 |
1. 脳内Aβ産生分泌部位の検討 ー シナプス前部仮説の検証 脳内Aβ産生部位として、シナプス前部のなかでもアクティブゾーンないしアクティブゾーンに融合したシナプス小胞が有力な候補であることが前年度までに判明した。一方、遊離型シナプス小胞にはAβ産生関連分子の局在はごく少量しか見られなかった。これはシナプス部でのAβ産生および分泌機構を考える上で重要な所見である。シナプス部でのAβ産生機構の解明は、アルツハイマー病の治療法開発を考える上でも重要であり、この解明に向けて、マウス脳を用いγセクレターゼ活性阻害によりAβの減少する部位、基質APP-C99が蓄積する部位などを同定する。 2. シナプス部γセクレターゼ複合体の分子修飾の解析 γセクレターゼ複合体構成タンパク質について、アクティブゾーンないしここに融合したシナプス小胞への局在が明らかになった。老齢サル脳やAD剖検脳を用い、シナプス局在を示すγセクレターゼ複合体に加齢に伴ってみられる翻訳後修飾の有無について検討を進める。方法論の検討が重要であることも改めて明らかになってきており、慎重に検討を進める必要がある。 3. Aβ産生抑制タンパク質ILEI (ACDP)を標的とするADの予防的治療法の探索 脳内ILEI発現に関して、発生・老化に伴う発現変化、発現レベルの調節メカニズム解明、プロモーター領域のゲノムDNAクローニングと解析、転写因子検索用アレイ解析などを行い、人為的なILEI発現誘導の方策への手掛かりを得る。
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