研究課題/領域番号 |
26430074
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大多 茂樹 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (20365406)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | TCTP1 / 神経幹細胞 / グリオーマ / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
TCTP1の機能をマウス神経幹細胞およびヒトES細胞由来神経幹細胞において継続して調べている。In Vitroの系において、マウスTCTP1をレトロウィルスにより過剰発現させた際に、セカンダリーニューロスフェアの形成能の増大が起きることを既に明らかにしていたが、新たに細胞増殖能をも伴うことを明らかとした。さらに、TCTP1組み換え蛋白によっても、マウス神経幹細胞およびヒトES細胞由来神経幹細胞において、細胞増殖能が増大することが判明した。申請者らは、MIF(Macrophage migration inhibitory factor)の機能を長年神経幹細胞で研究してきたが、マウス神経幹細胞およびヒトES細胞由来神経幹細胞においてTCTP1がMIF下流因子として位置づけれることが新たに明らかとなった。また、ヒトES細胞由来神経幹細胞においてレンチウィルスを用いて、TCTP1の発現抑制を行ったところ、ニューロンへの分化能の低下が生じた。このことは、TCTP1が単にヒトES細胞由来神経幹細胞の生存や幹細胞性維持に関わっているのみならず、その運命系譜決定に関わっていることを示唆する。事実、マウス胎児脳でTCTP1の発現抑制を行った際に、神経分化の遅延が認めれらた。ヒトES細胞由来神経幹細胞においてTCTP1の発現抑制を行いTCTP1に制御されるmiRを探索したところ、TCTP1の発現抑制により発現亢進するるmiRを同定することに成功した。当該miRはさらにSMOの3’-UTRを標的としていることが明らかとなったが、当該miRを過剰発現させると、ヒトES細胞由来神経幹細胞の細胞増殖抑制が起こることが明らかとなった。現在、これらMIF-TCTP1を基軸としたエピジェネティックな神経幹細胞制御機構の解明に取り組んでいる。さらに、昨年度より取り組んでいるヒトiPS細胞におけるゲノム編集技術を用いたTCTP1遺伝子破壊にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス神経幹細胞およびヒトES細胞由来神経幹細胞において、MIF下流にTCTP1が制御されていることを明らかにすることに成功した。また、TCTP1が制御するmiRを新たに同定し、その下流標的を新たに同定するとともに現在機能解析を行っている。RNAシークエンスの解析結果をもとに、バイオインフォマティックスを駆使してTCTP1が制御するシグナリングネットワークも明らかになりつつある。最大の進歩として、ヒトiPS細胞においてTCTP1をゲノム編集技術により遺伝子破壊することに成功したことである。現在、得られた複数のクローンの拡大培養を行っているが、神経幹細胞に分化させてその性状解析により、精緻なTCTP1のヒト神経幹細胞における機能解析を実施する予定でる。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトES細胞由来神経幹細胞において、レンチウィルスを用いてTCTP1の発現抑制を行い発現変動のあったmiRを複数同定したが、それらの機能解析を新たに計画している。 ゲノム編集技術において、ヒトiPS細胞においてTCTP1の遺伝子破壊を行ったが、それらiPS細胞を神経幹細胞に分化させて、TCTP1を起点とした神経幹細胞制御機構をエピジェネティックな観点から追及する。新たにAgo抗体を用いた免疫沈降技術を取り入れて、TCTP1によるmiR制御機構を解明する予定である。TCTP1がグリオーマで正常脳より発現が高いことを明らかにしているが、グリオーマ幹細胞においてのTCTP1およびTCTP1に制御されるmiRの機能を新たに探索するとともに、グリオーマ治療の分子標的としてのTCTP1の意義を解明していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度を迎えるにあたり、iPS細胞を培養するための費用および各種分子生物学研究用試薬(RNAシークエンス費用)やジーンチップ解析費用等のコスト増を想定し、若干の研究費を繰り越すことにした。これにより、効果的な本研究プロジェクトの推進が期待できる。
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次年度使用額の使用計画 |
RNAシークエンスやジーンチップ解析等の高額な解析手法に、研究費を投入する予定である。加えて、学会での情報収集および成果発表に伴う学会参加費用も計上している。これらの他に、備品購入も小額計上する予定である。
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