マウス神経幹細胞においてMIF (Macrophage migration inhibitory factor)が細胞増殖や神経幹細胞性維持に貢献していることを既に明らかにしてきた。また、マウス神経幹細胞において、MIFにより転写因子Sox6やクロマチンリモデリング因子Chd7が発現制御されること。また、それら因子が神経幹細胞の増殖に貢献しうることも報告してきた。これらとは別に、近年MIFがヒトグリオーマ幹細胞の増殖やアポトーシス制御に貢献していることも独自に明らかにした。今回、マウス神経幹細胞におけるMIF下流因子としてTCTP1 (Tumor Protein Translationally-Controlled 1)を新たに同定した。解析の結果、TCTP1はマウス神経幹細胞の細胞増殖に関与していた。マウス子宮内胎仔脳電気穿孔法を用いた解析においては、TCTP1の発現抑制は新生神経細胞移動を阻害した。さらに、ヒトES細胞由来神経幹細胞においても、TCTP1はMIFにより発現制御を受けるとともに、神経分化制御にも貢献していることが明らかとなった。これらに加え、miRアレイカード等を用いた解析により、ヒトES細胞由来神経幹細胞において、MIF-TCTP1-miR338-SMOよりなるシグナルカスケードが存在することを新たに見出した。興味深いことに、グリオーマ患者において、MIFとTCTP1の遺伝子発現に有意な相関が存在することが、データベース解析により明らかとなった。そこで、グリオーマ患者由来グリオーマ幹細胞におけるTCTP1の機能解析を試みた。グリオーマ幹細胞においても、TCTP1 がMIFやCHD7により発現制御を受けるとともに、細胞増殖能にも貢献していることが明らかとなった。これらのことは、グリオーマ治療において、TCTP1が新たな分子標的となることを示唆している。
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