研究実績の概要 |
ラット小脳顆粒細胞-分子層介在ニューロン(籠細胞、星状細胞)間のグルタミン酸作動性シナプスにおいて、電位依存性カルシウムチャネルやGi/o共役型受容体が関わるシナプス前抑制には、シナプス小胞の多重性放出におよぼす影響により区別される複数の様式が存在することを報告してきた。例えば、Cav2.1(P/Q-type)チャネル阻害薬omega-agatoxin IVAやGABA(B)受容体作用薬baclofenは多重性放出を強く阻害した。一方、介在ニューロンの一過的な脱分極に伴い惹起される、内因性カンナビノイドの逆行性遊離と前シナプス性CB1受容体の活性化を介したシナプス前抑制(脱分極誘導性脱興奮:depolarization-induced suppression of excitation, DSE)では、多重性放出は減弱しなかった。シナプス前抑制にこうした相違が作り出される分子的基盤を明らかにするため、DSEをモデルに電位依存性カルシウムチャネルが担う役割を検討した。
DSEは、Cav2.2(N-type)チャネル阻害薬omega-conotoxin GVIAならびにCav2.3(R-type)チャネル阻害薬SNX-482の同時投与により完全に阻害された。一方、各阻害薬の単独投与はDSEに無効であった。また、両阻害薬が顆粒細胞-分子層介在ニューロン間の興奮性シナプス後電流(EPSC)を減弱させる作用は閉塞的(occlusive)であった。Cav2.2チャネルとCav2.3チャネルは、顆粒細胞CB1受容体の下流において相補的な様式でシナプス前抑制を仲介していることを示唆している。引き続き、Cav2チャネル各サブタイプ間で観察された機能的分化(即ち、多重性放出を制御する機能の有無)の分子メカニズムやその生理的意義を追究している。
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