研究課題
ヒト外眼筋繊維症の原因として同定された変異β3チューブリンがどのように神経軸索形成の異常を引き起こすか理解するため、ヒトのβ3チューブリンの組み換えタンパク質を発現精製した。発現精製条件を調整し、病気の患者さんから同定された R262H 変異体については発現量を大きく改善することができたが、モデル解析のためのアラニン置換変異体 R262A については発現量があまり改善されなかったため、発現細胞の大量培養によって必要な量のタンパク質を精製した。これらチューブリンタンパク質を用いて、in vitro でキネシンとの相互作用を解析した。一分子蛍光観察では、これらの変異によってキネシンが微小管に結合できなくなることが明らかになったため、生化学的な解析からキネシンの ATPase サイクルの中のどこが正常に進行しないかなどのメカニズムを明らかにした。近年報告された構造学的な知見と照らし合わせると、ヒトβ3チューブリンの R262 残基はキネシン-チューブリン結合に非常に重要な役割を果たしていると考えられるため、キネシン側の結合残基にも変異を入れたタンパク質も用いて相互作用を解析した。加えて、この in vitro 実験で得られたβ3チューブリン-キネシンの相互作用が実際に神経系の形成に影響していることを確かめるため、マウス胎児の脳でこれらの遺伝子を発現させる実験を行い、影響が出るかどうかを確認しているところである。加えて、本研究で開発および改良している技術を応用することで、滑脳症などの原因遺伝子でもあるダイニンがどのようにチューブリンと相互作用するかを解析した結果が、Journal of Cell Biology に掲載された。(vol. 208 p. 211-222, 2015年1月)
2: おおむね順調に進展している
β3チューブリン R262A 変異体の発現量が少ないため、発現方法の改善を目指していくつかの方法を試したが、効率の良い方法は見いだせなかった。しかし、最終的には培養量を増やすことで、必要な量を確保することができた。その他はほぼ計画通りに実験が進行しており、順調である。
今後、計画通りに実験を進めると同時に、培養細胞を用いて、これらの遺伝子がどのように軸索形成、軸索伸長に影響するかを観察し、より詳細なメカニズムも明らかにしてゆく計画である。
研究が順調に進行しているため、成果を論文として投稿中であるため、論文受理が確定するまで学会発表を延期した。また、実験が順調に進行しているため、実験の試行回数を予定よりも少なく済ませることができた。
論文発表に合わせて次年度に学会発表を予定している。また、詳細なメカニズム解明のための、細胞レベルでの実験を追加するために使用する。
すべて 2015
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The Journal of Cell Biology
巻: 208 ページ: 211-222
10.1083/jcb.201407039