本研究は、FcγRIおよびその下流のシグナル伝達分子Sykの遺伝子欠損マウス、または抗体を持たない免疫不全マウスを用いて、IgG抗体とその受容体経路が脳発達期に果たす役割の解明を目指す。これまでに、脳内においてFcγRがミクログリア特異的に発現し、一方、脳内のIgG抗体量は、胎生初期により高く、その後徐々に減少することを明らかにした。次に、FcγR遺伝子欠損マウスおよび免疫不全マウスNSGを用いた in vivoにおけるミクログリアの貪食機能を調べるため、胎児脳内の死細胞をTUNEL法で解析した結果、死細胞発生のピークである胎生14日前後において、胎児脳内の死細胞の割合がNSGで顕著に高いことが分かった。これは、ミクログリアによる死細胞の貪食除去が遅れた結果ではないかと推察された。さらに、野生型マウスを用いてin vitroにおけるミクログリア貪食活性を検討したところ、胎生初期のミクログリアの貪食能が、胎生後期や出生後の脳内ミクログリアより高いこと、さらにSyk阻害剤やFc阻害剤を用いた解析により、少なくとも胎生初期のミクログリアの貪食活性が、FcγR経路を介していることを明らかにした。現在、このFcγRを介した貪食経路の破綻が、脳内における炎症の惹起に繋がるか否かについて、NSGマウスの脳内における炎症性/抗炎症性ミクログリアの割合や、それらが放出するサイトカイン量を測定し野生型マウスとの比較検討を進めている。以上の結果から、胎生期に胎盤を介して胎児脳内に流入する母体由来IgG抗体が、その受容体であるFcγRを介して、貪食機能を含めたミクログリアの活性化を制御している可能性が示唆された。
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