研究課題/領域番号 |
26430089
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
小池 智也 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40432158)
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研究分担者 |
塩見 雅志 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (50226106)
石田 達郎 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00379413)
于 イン 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師(研究機関研究員) (30644942)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 冠攣縮 / ACS / 疾患モデル / WHHLMIウサギ |
研究実績の概要 |
先進諸国の主な死因である急性冠症候群(ACS)は、心臓の冠動脈に生じた動脈硬化プラークの破裂→血栓形成→冠動脈の閉塞により発症する。ACS は臨床上予測が困難かつ死亡率が高いが、これを再現できる疾患モデル動物は無かった。申請者らは、独自に開発した冠動脈プラークを発症するWHHLMIウサギに冠動脈の異常収縮(冠攣縮)を誘発し、ACS の再現に世界で初めて成功(Arterioscler Thromb Vasc Biol,2013; 33: 2518-2523) した。しかしその発症率が低いため、追加の予備検討ならびに国内外の専門家との協議を行い、発症率を向上させ疾患モデルとして確立できる目途が立った。そこで、世界初のACS のモデル動物を確立することを目的に本研究を遂行した。 初年度は、前年度までの交配にて準備した高齢WHHLMIウサギを用いて、プラーク破綻の確率を高めるための試みを行った。冠攣縮誘導の方法は、前年度までの予備実験で得られた結果をもとに、従来法の薬剤に加えAngiotensin II 20ng/kg/minを併用投与するとともに、Norepinephrineを従来法の半量(1 microgram/kg/min)にし、 冠攣縮誘発剤であるErgonovineを当初の予定よりも高用量かつ短期間で連続投与する方法を採用(1000 microgram/kg, 5分間隔で4回)した。この投与法改善により、冠攣縮の誘発率は従来法と大きな違いは認められなかったが(従来法77%, 今回80%)、冠攣縮によるプラークの損傷について、病理組織学的解析の結果、病変内マクロファージの内腔への突出の頻度が大幅に増加していることが明らかになった(従来法57%, 今回100%)。 次年度は、高齢個体に比べ脆弱なプラークを有する若齢個体を用いて、ACSを高率に発症するプラーク破綻モデルの確立を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請の時点では、高率にプラーク破綻を生じるACS発症モデルを確立するため、冠攣縮の誘導法を、Angiotensin IIを追加し(20 microgram/kg)、冠攣縮誘発剤のErgonovine(200 microgram/kg)を、30分間隔で5回、1時間間隔で3回、24時間間隔で2回行う予定であったが、申請後のさらなる予備検討の結果、これらの方法よりも血管壁への強い負荷をかけられると推測される方法を見出し、この方法にて順調に1年目の試験を実施できた。この新たな方法では、上記のAngiotensin IIの追加に加え、Norepinephrineを従来法の半量(1 microgram/kg/min)にし、冠攣縮誘発剤のErgonovineを予定より高用量かつ短期間で連続投与(1000 microgram/kg, 5分間隔で4回)した。これによりNorephiephrine投与に伴う心拍出量増加、つまり労作性負荷に似た負荷を心臓にかけるリスクを低減でき、今回の目的である「非労作性=安静時」の条件に合致するだけでなく、冠攣縮誘発剤の高用量かつ短期間での連続投与により、血管壁に強い収縮を誘導できるため、冠動脈プラークへの物理的負荷を増大できる。その結果、冠動脈プラーク損傷の指標のひとつである病変内マクロファージの血管内腔への突出の発生率を大幅に増加(従来法57%, 今回の方法100%)させることに成功した。 本年3月より開始予定であった若齢個体を用いた検討が、本年度の病理組織学的解析が1ヵ月遅延したため次年度に実施することになったが、遅延の原因となった病理組織学的解析の方法に改善の余地があるため、その改善によりこの遅れを新年度にて吸収できると考えており、大勢には影響しないと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の検討により、高齢のWHHLMIウサギを用いた、改良した冠攣縮誘導法によって、冠攣縮に伴うプラーク損傷の頻度を高率にすることに成功した。しかしながら、今回のプラーク損傷の所見は、プラーク破綻に伴う血栓形成とACSを直接的に誘発できるような、重度の損傷ではなかったため、さらなる取り組みが必要となる。それは、H27年度の計画にある通り、より若齢の個体を用いたプラーク破綻実験の実施である。今回使用した高月齢個体の冠動脈病変は、細胞成分に乏しく線維成分に富み、重度に狭窄しているため、冠攣縮誘導による心筋虚血が生じやすく、冠攣縮に伴う不安定狭心症(ACSのひとつの病態)を高率に発症する疾患モデルとなることが示唆され、有益な成果であるが、本研究の最終目標は、ヒトのACSの発症機転として最も重要な、プラーク破綻に伴う血栓形成によるACS(急性心筋梗塞)を高頻度に発症させることである。高齢ウサギの重度狭窄かつ線維成分に富む病変は、物理的負荷に対して比較的抵抗性であり、血栓が形成されるような重度のプラーク破綻を誘導できる可能性が高くないことが、今年度の研究成果から示唆された。一方、若齢個体では、生理活性物質を活発に産生する生きた細胞がプラーク内に多く存在するため、マクロファージ由来の泡沫細胞から分泌される細胞外基質分解酵素(マトリックスメタロプロテアーゼ等)に富み、プラーク内の線維成分の消化によりプラークの脆弱性が促進されることが、これまでのWHHLMIウサギを用いた病理組織学的解析の結果から示唆されているため、今回確立した誘導法を若齢個体に行い、血栓形成にまで発展しうる重度のプラーク破綻を誘導できることが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の3月から開始予定の若齢群の実験で使用予定の試薬類の購入資金だったが、本年度に実施し2月終了予定だった高齢群の病理組織学的解析が3月までずれ込んだ関係で、今年度の3月に若齢群の実験を開始しなかったため、購入に至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
3月に実施予定だった実験を新年度にて実施するため、3月に購入予定だった試薬類を新年度に購入し、経費を使用する。本年度の計画は当初の予定通り実施し、1ヵ月の遅れについては、昨年度の遅延の原因となった病理組織学的解析の手順の見直しと効率化を図ることで吸収を試みる。
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