研究課題
私はグルタミン代謝の鍵となるGLS2を癌抑制遺伝子p53が制御しエネルギー産生や抗酸化作用を発揮していることを見出し報告してきた。本研究ではこれまでの研究を推し進めIn vivoにおけるGLS2の癌と生活習慣病における役割を明らかとするため以下の実験を行った。1. GLS2ノックアウトマウスの作成:GLS2ノックアウトマウスの遺伝子ターゲテイングストラテジーは、イントロン1にgene trap vectorが挿入されており、exon2以降が翻訳されないようになっている。GLS2ノックアウトマウスは妊孕性に問題なく、メンデルの法則に従って生まれることが確認された。2. GLSノックアウトマウスの生活習慣病との関連:6週齢から高脂肪食負荷したGLS2ノックアウトマウスは有意に死亡率が増加した。高脂肪食負荷GLS2ノックアウトマウスは10週齢から有意に体重増加を示し、高インスリン血症、高中性脂肪血症、更にOGTTで耐糖能障害を示し、いわゆるメタボリック症候群を呈していた。更にITTでインスリン抵抗性、ピルビン酸負荷試験で肝臓における糖新生が増加していた。更に肉眼所見でGLS2をノックアウトした肝臓は顕著な脂肪肝を呈しており、各種免疫染色にて肝細胞のballoning, 繊維化, mallory小体が認められNASHを来していた。GLS2ノックアウトマウスではDNAの酸化損傷のマーカーである8OHdGが増加しており、NASH肝を呈した背景には、酸化ストレスの増加が関与していると考えられた。3. GLS2ノックアウトマウスにおける癌発症:GLS2が癌の初期発症に関与しているのか検討するため ストレプトゾドシンと高脂肪食負荷を組み合わせNASH-HCCモデルであるSTAMマウスを作成した。STAMマウスでは7週齢でNASH, 20週齢でほぼ全例に肝癌を発症することを確認した。更にGLS2ノックアウトマウスではWTに比較して明らかに早期に肝癌を発症することが示された。
2: おおむね順調に進展している
GLS2ノックアウトマウスの作成に世界に先駆けて作成することに成功した。更に計画していたGLS2の生活習慣病と癌における役割を解明することが出来た。そして、GLS2ノックアウトマウスが、高脂肪食を負荷すると肥満、高中性脂肪血症、糖尿病といったいわゆるメタボリック症候群を呈するといった非常に興味深い結果を得ることができた。詳細な検討によりグルタミン代謝が障害されることで糖新生へとシフトし、更に肥満や酸化ストレスの増加に伴うインスリン抵抗性から糖尿病を発症したと考えられた。更に酸化ストレスの増加が脂肪肝からNASH、更には肝癌への進展に寄与するといった興味深い結果を得ることが出来た。
GLS2遺伝子はヒトおよびマウスにおいて高い蛋白相同性を示し、共に肝臓、脳、膵臓において高発現していた。今後は細胞内代謝に重要や役割を果たしている肝臓、膵臓において臓器特異的にGLS2をノックアウトし臓器特異的な機能を解析することを計画している。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
J Clin Endocrinol Metab
巻: 101 ページ: 841-6
10.1210/jc.2015-2855.
Endocr Pract.
巻: 21 ページ: 1152-60
doi: 10.4158/EP15756.OR. Epub 2015 Jul 27. PMID: 26214113