研究課題
がんに対する分子標的療法の有効性は、BCR-ABL陽性白血病に対するイマチニブ、HER2陽性乳癌に対するトラスツズマブなどが、これらの疾患の予後を劇的に改善したことにより明らかである。しかし、明確な治療標的が判明しているがんは限られており、様々ながんにおける標的分子、すなわち本質的ながんの原因遺伝子の同定と、その詳細な分子メカニズムの解明が必要とされている。本研究はがん遺伝子であるRAC蛋白質の活性化型変異について、RAC変異を伴うがんの分子標的療法開発のための基礎的知見を得ることを目的として行われた。代表的ながん遺伝子であるRAS変異体は低分子量GTP結合蛋白質であるが、近年RAS以外の低分子量GTP結合蛋白質の変異も報告されつつある。例えばRASファミリーのRIT1の活性化型変異が肺腺癌の約2%に見られる。またアクチン繊維の制御にかかわるRHOAの変異がスキルス胃癌と末梢性T細胞リンパ腫で高頻度(10%-70%)に見られる。RACもまたアクチン繊維の制御に関わるので、RACとRHOAが発がん過程で何らかの相互作用をしていることが予測される。RAC1はP29S変異によって活性化されることが明らかにされているが、本研究でP29Sの他に少なくとも3カ所の領域の変異で活性化されることを明らかにした。実際がん公共データベースに登録された変異にはこれらの部位の変異が集積していた。乳がん138例、頭頚部および肺の扁平上皮癌96例について変異解析を行ったが、RACの活性化型変異は検出されなかった。36例の乳がんについてはRAC以外についても変異解析したところ2症例において発がん能をもつ低分子量GTP結合蛋白質の変異が検出された。
3: やや遅れている
昨年度に解析の出来なかった、頭頚部および肺の扁平上皮癌の変異解析が終了したが、肉腫の解析が滞っており、研究全体ではやや遅れていると評価した。
RACの変異は当初の予想通りにやはり低頻度であるが、他の低分子量GTP結合蛋白質についても活性化型変異が存在することが明確になってきた。当初の予定には無かったが、大腸がんについても検体が入手可能となったので、大腸がんについてもRACおよび他の低分子量GTP結合蛋白質の変異解析を進める。
すべて 2015
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Cancer Sci.
巻: 106 ページ: 1687-92
10.1111/cas.12828
巻: 106 ページ: 1137-42
10.1111/cas.12726