研究実績の概要 |
がんに対する分子標的療法の有効性は、BCR-ABL陽性白血病に対するイマチニブ、HER2陽性乳癌に対するトラスツズマブなどが、これらの疾患の予後を劇的に改善したことにより明らかである。しかし、明確な治療標的が判明しているがんは限られており、様々ながんにおける標的分子、すなわち本質的ながんの原因遺伝子の同定と、その詳細な分子メカニズムの解明が必要とされている。本研究では申請者らが発見した新規がん遺伝子であるRAC蛋白質の活性化型変異について、RAC変異を伴うがんの分子標的療法開発のための基礎的知見を得ることを目的とする。 代表的ながん遺伝子であるRAS(KRAS, HRAS, NRAS)以外の低分子量GTP結合蛋白質の発がんにおける役割は長年明らかにされていなかった。しかし、ここ数年でRACに加えて、他の低分子量GTP結合蛋白質の変異も報告されつつある。例えばRASファミリーのRIT1の活性化型変異が肺腺癌の約2%に見られる。またアクチン繊維の制御にかかわるRHOAの変異がスキルス胃癌と末梢性T細胞リンパ腫で高頻度(10%-70%)に見られる。これまで困難とされていた低分子量GTP結合蛋白質に対する阻害剤の開発が再び注目を浴びており、治療標的として今後の研究の発展が不可欠である。 昨年度に乳がん臨床検体中の低分子量GTP結合蛋白質の発がんをもたらす変異の検出を進めた。RACファミリー以外に3種類の低分子GTP結合蛋白質において活性化型変異を同定し、いずれについてもヌードマウスを用いた造腫瘍能の評価を行い、その発がん能が確認された。本年度はそのクローン解析を進めた。TP53変異がクローナルである一方で低分子量GTP結合タンパク質変異はサブクローナルである場合も散見された。これは、低分子量GTP結合タンパク質の変異をターゲットとする治療戦略の構築において、重要な知見となる。
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