研究課題/領域番号 |
26430107
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 良太 東京大学, 医学部附属病院, 特任臨床医 (80647660)
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研究分担者 |
伊地知 秀明 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (70463841)
中井 陽介 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (80466755)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 膵臓癌 / 化学療法 / VCAM-1 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、膵癌患者の血漿を用いてVCAM-1と膵癌の治療抵抗性もしくは奏功性との関連を明らかにし、さらにVCAM-1の機能解析を加えることで実地臨床に有用な生体マーカーかつ治療標的分子としてのVCAM-1の有用性を示すことである。 1)まず膵癌化学療法患者から我々が採取し蓄積している多数例の経時的な血漿検体を用いて測定した可溶性VCAM-1の値と患者の予後、治療奏功性・抵抗性との相関について統計学的な検討を行った結果、血中の可溶性VCAM-1の減少とgemcitabinemによる化学療法の無増悪期間の延長に相関が見られることが明らかとなり、VCAM-1が化学療法の耐性を示す指標となることが示された。 2) 次に可溶性VCAM-1や細胞表面に発現するVCAM-1の持つ機能について検討するために、我々の樹立した膵発癌マウス(遺伝子型Ptf1acre/+;LSL-KrasG12D/+;Tgfbr2flox/flox)から分離培養した細胞株を用いてVCAM-1のノックダウンや恒常発現細胞株を作成した。VCAM-1の発現の変化のみでは培養時の細胞増殖速度に変化が見られなかったのに対し、マウス皮下に移植した腫瘍の増殖速度は増加した。また培養上清中の可溶性VCAM-1がVCAM-1ノックダウン株では減少し、恒常発現株では増加していることを確認し、この上清やrecombinant VCAM-1に対してマクロファージ細胞株がVCAM-1濃度依存的に遊走することを確認した。また膵癌細胞株とマクロファージ細胞株の共培養により膵癌細胞株のgemcitabine感受性が変化することを示した。 3) これらの結果を踏まえ、膵癌モデルマウスを用いてVCAM-1の中和抗体投与もしくはgemcitabineとの併用療法による治療抵抗性の克服効果についてin vivoで検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究計画については、以下のように、ほぼ予定通りに進捗したと考える。 まず我々はこれまで蓄積した膵癌化学療法患者の血漿を用いてELISAでの測定により可溶性VCAM-1の経時的な変化を検討し、患者の予後、無増悪期間などの臨床情報と照らし合わせて治療抵抗性との相関について検討し,VCAM-1値の変化と無増悪期間との関連を示した。マウス膵癌やヒト膵癌の組織切片を用いて、免疫染色により癌組織におけるVCAM-1の発現を検討した。さらに我々がモデルマウスから樹立したマウス膵癌細胞株と癌関連繊維芽細胞株を用いて上清中の可溶性VCAM-1を測定し、gemcitabine投与による発現の変化について検討した。可溶性VCAM-1の産生について、ADAM17による細胞表面のVCAM-1の切断が寄与するかについても検討を加えた。VCAM-1の機能解析として、recombinant VCAM-1を用いたマクロファージの遊走試験を行った。さらに、膵癌細胞株に対してレンチウイルスの系を用いてVCAM-1のノックダウン細胞株や恒常的発現株を作成し、これらの細胞の上清に対するマクロファージの遊走試験やVCAM-1の発現量の変化による腫瘍浸潤能、腫瘍増殖能への影響について検討を行った。また中和抗体を用いて可溶性VCAM-1の機能を阻害した場合に、これらの結果がどのように変化するかについても検討した。癌関連線維芽細胞との相互作用についても検討を行った。また抗癌剤に対する耐性への寄与についての検討として、繊維芽細胞やマクロファージと癌細胞との共培養を行った。また免疫抑制マウスに対してこれらの膵癌細胞株を皮下移植し、in vivoでの腫瘍形成能、腫瘍増殖能の変化を評価した。 癌細胞におけるVCAM-1の発現制御機構やシグナル伝達に関してはまだ検討の余地があり、平成27年度以降の検討課題と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の実験結果を踏まえ、VCAM-1の阻害とgemcitabineとの併用治療を膵発癌マウスに対して施行し、その抗腫瘍効果・生存期間を検討する。膵発癌マウスを対照群、gemcitabine単独群、VCAM-1阻害剤単独群、gemcitabine+VCAM-1阻害剤併用群の4群に分け、死亡まで投与継続する。その治療効果の実際の生体内での機序を確認するため、腫瘍組織・血液サンプルを収集し、様々なシグナルの活性化や阻害、間質構成成分の変化(血管新生・マクロファージ浸潤・線維化・細胞外マトリックス成分等の変化)についてウェスタンブロットや定量的PCR, 免疫染色などにより詳細に検討する。この併用治療に対しては、gemcitabine単独とはまた異なる遺伝子発現プロファイル・血中液性因子プロファイルの変化が出現することが予測される。それはこの併用治療による治療効果を示すものであると共に、事前に予測されなかった新たなシグナルのクロストークを示す変化が現れている可能性がある。ヒトへの臨床応用を考える上では、Adverse effectにつながる変化がないかということについても詳細に検討する必要があるため、マイクロアレイによる網羅的な解析を行うことも検討する。 Kras活性化+TGF-beta II型受容体ヘテロノックアウトモデルに対して、原発腫瘍が形成され転移が出現する前の生後25週齢の時点から、まず上のKras活性化+TGF-beta II型受容体ホモノックアウトモデルモデルで効果的であった治療法を施行し、転移抑制効果および生存延長効果を検討する。この場合も治療の前後で経時的に腫瘍組織と血漿サンプルを収集し、実際の治療効果の作用機序の検討を行う。この治療法で転移が抑制されなかった場合、これらの経時的サンプルから再度治療抵抗性に関与する因子を探索する。
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