本研究の目的は、膵癌患者の血漿を用いてVCAM-1と膵癌の治療抵抗性もしくは奏功性との関連を明らかにし、さらにVCAM-1の機能解析を加えることで実地臨床に有用な生体マーカーかつ治療標的分子としてのVCAM-1の有用性を示すことである。 我々はこれまでの研究で、まず膵癌化学療法患者から採取した血漿検体を用いて可溶性VCAM-1の値と患者の予後、治療奏功性・抵抗性との相関についての検討から、血中の可溶性VCAM-1の減少とgemcitabineによる化学療法の無増悪期間の延長に相関が見られることを示した。その後、膵発癌マウスモデル(遺伝子型Ptf1acre/+;LSL-KrasG12D/+;Tgfbr2flox/flox)から樹立した膵癌細胞株などを用いた検討により、膵癌細胞におけるVCAM-1の発現はin vivoで腫瘍の増大に影響を持つことを示した。またVCAM-1はマクロファージの遊走能に影響し、マクロファージと腫瘍細胞の相互作用により膵癌細胞株がgemcitabineへの耐性を増す可能性を示した。 これらの結果を踏まえ、膵癌モデルマウスに対してVCAM-1中和抗体及びgemcitabineとVCAM-1中和抗体の併用療法を行ったところ、いずれも生存延長効果、腫瘍縮小効果が認められた。また膵癌細胞のマウス皮下移植モデルに対しても同様の治療を行ったところ、腫瘍の縮小効果が認められた。一方、いずれの実験においても、VCAM-1中和抗体とgemcitabineの併用療法において明らかな相乗効果は認められなかった。VCAM-1は腫瘍間質の繊維芽細胞でも発現が認められており、腫瘍細胞のみではなく、間質も含めた腫瘍全体から分泌されて腫瘍の増大および進展に寄与していると考えられた。
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