研究課題
本研究の目的は、Lats1/2を介した新規のリン酸化シグナルカスケードの分子機序を明らかにすることにより中心体が染色体不安定性のチェックポイント機能を担うシグナル伝達(クロストーク)の場として機能することを明らかにすることである。実験はほぼ予定どおり順調に進み以下の研究成果を得た。(1)Lats1/2-CHO1-LIMK1経路の発見:中心体の制御異常がどのような分子メカニズムで染色体の不均等分配や細胞質分裂異常を誘導するのかを明らかにするために、分裂期制御因子の中からLats1/2キナーゼのリン酸化標的候補を探索した。その結果、Lats1/2が細胞質分裂に必要なキネシンモーター蛋白質Mklp1とそのバリアントCHO1の特定の部位をリン酸化することを見つけた。さらにLats1/2によるCHO1のリン酸化は細胞質分裂を制御するキナーゼLIMK1との結合および活性に関与していることを見出した。これらの結果は中心体という細胞内小器官がLats1/2を介して遠隔的に細胞質分裂の厳密な制御を行っているという新しいモデルを提唱している(論文印刷中)。(2)Lats1/2-INCENP経路:Lats1/2の新たなリン酸化標的としてINCENPを同定した。INCENPはAurora-Bの活性制御を行っているため、Lats1/2によるINCENPのリン酸化部位をアミノ酸置換した変異体をHeLa細胞に導入したところ、Aurora-Bの活性を阻害し細胞質分裂を抑制した(論文投稿準備中)。(3)Lats1による中心体複製制御機構:Lats1 nullノックアウトマウスおよびその培養細胞(MEF)を作製したところ、中心体の過剰複製が観察された。Lats1と相互作用する因子を探索したところ、中心体複製を制御する脱リン酸化酵素Cdc25Bを同定した。Lats1 null MEFにおいてCdc25Bタンパク質が安定化したことから、Lats1はCdc25Bと結合することによりそのタンパク質分解を誘導していることが示唆された(論文投稿中)。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究計画の目標の一つとして掲げていた「中心体と細胞質分裂を繋ぐ経路」としてLats1/2-CHO1-LIMK1経路を発見し、その分子メカニズムの解析について研究計画の1年目で既に論文発表に至ることができた(現在、印刷中)。また、この他にLats1による中心体複製制御の分子メカニズムの一端を明らかにし、その成果をまとめることができた(現在、学術論文を投稿中である)。さらに、これら以外に投稿間近で現在執筆中の論文が2報あり、実験は予定以上に順調に進んでいる。
今後も研究計画どおり推進する。中心体が染色体不安定性のチェックポイント機能を担うためのシグナル伝達(クロストーク)の場として機能し、細胞質分裂や染色体分配、核内の機能を連携する分岐点になっているという新しいモデルを実証するために中心体キナーゼLats1/2を介した新しいリン酸化シグナル経路の同定とその分子機序について機能解析を進めていく。TALEN系・Crispr系によりLats1あるいはLats2の遺伝子を破壊した癌細胞株(Lats1-KO/HeLa-S3, Lats2-KO/HeLa-S3)の樹立に成功したので今後の研究にも活用していく。
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