研究課題
本研究は、Lats1/2を介した新規のリン酸化シグナルカスケードの分子機序を明らかにすることにより中心体が染色体不安定性のチェックポイント機能を担うシグナル伝達(クロストーク)の場として機能することを明らかにすることを目的とする。実験はほぼ予定どおり順調に進み本年度は以下の研究成果を得た。[1] Lats1による中心体複製制御機構:昨年度に引き続き、Lats1 nullノックアウトマウス由来の培養細胞(MEF)を解析し、中心体の過剰複製機構を詳細に調べたところ、Lats1欠損MEFでは中心体がクラスター化した状態で過剰複製することが高頻度に認められ、悪性癌細胞の特徴である微小核や巨大核、多極紡錘体の形成が観察された。また、この制御因子の一つとして同定した脱リン酸化酵素Cdc25Bとの結合を調べたところ、Lats1の非キナーゼドメインであるN末領域で結合することが明らかになった。Lats1の欠損はCdc25Bタンパク質の安定化を誘導することから、Lats1のN末領域はCdc25Bのタンパク質分解を誘導して中心体複製の恒常性を維持していることを明らかにした(Mukai et al., 2015)。[2] Lats1/2-INCENP経路:Lats1/2の新たなリン酸化標的として同定したINCENPについて、Lats1/2によるリン酸化部位を特異的にアミノ酸置換した変異体をドキシサイクリンで誘導できるHeLa/Tet-ON細胞株を樹立した。この細胞株をタイムラプス等で観察したところ、このリン酸化が、多極性に分裂する癌細胞の細胞質分裂(切断)とそれを制御するAurora-Bキナーゼの活性化に必要であることを見出した(論文リバイズ中)。[3] Lats2-NS経路:中心体と核内機能を繋ぐ経路におけるLats2の新しいリン酸化標的として、核スペックル(NS: Nuclear speckle)の構成因子であるPHF6を同定した。そのリン酸化部位も決定したので、今後は、核スペックルにおけるLats2の機能を解析していく。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究計画の目標の一つである「Lats1による中心体複製制御の分子メカニズムの解明」として、Lats1-Cdc25B経路を見出し、本年度はその成果を学術論文として発表することができた(Mukai et al., 2015, Sci Rep)。また、もう一つの目標である「Lats1/2-INCENP経路の役割」についてもその分子メカニズムを解明し、その成果を論文としてまとめることができた(論文リバイズ中)。さらに、「中心体と核内機能を繋ぐ経路」としてLats2の新たなリン酸化標的を見出し、機能解析を進めている(投稿準備中)。これら以外に投稿間近で現在執筆中の論文が1報あり、実験は予定以上に順調に進んでいる。
今後も研究計画どおり推進する。引き続き、中心体が染色体不安定性のチェックポイント機能を担うためのシグナル伝達(クロストーク)の場として機能し、細胞質分裂や染色体分配、核内の機能を連携する分岐点になっているという新しいモデルを実証するために中心体キナーゼLats1/2を介した新しいリン酸化シグナル経路の同定とその分子機序について機能解析を進めていく。さらに癌幹細胞におけるLats1/2の役割の一端も見出しているので、当初の計画どおりこれらの研究も進めて中心体の新しい機能に迫りたい。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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