研究課題
染色体転座による遺伝情報の改変は、がん、白血病や先天異常の発生の根本的な原因となりえる。染色体転座は放射線や化学物質などによるDNA二本鎖切断(DSBs)の誘導とその修復エラーにより形成されると考えられているが、その詳細については未だ不明である。我々は、抗がん剤エトポシドによる11q23転座形成をモデルシステムとして、染色体転座形成の分子機構の解明に取り込んできた。本研究は、DSBs修復の制御機構に関連するクロマチン変換因子INO80の染色体転座切断点集中領域への集積とその分子機構の検討を中心に、染色体転座形成の分子機構の解明に取り組む。平成26年度は、INO80のリン酸化を中心とした翻訳後たんぱく質修飾と修飾部位の同定、さらにその修飾とATMの関連について生化学的な検討を行った。その結果、INO80のC末端にリン酸化部位が存在することが明らかになったが、ATMの直接的標的でないことが判明した。また、INO80とRAD51が相互作用があることが明らかになった。さらに、FISH法等を用いてINO80と11q23染色体転座形成の関連について検討したところ、INO80が11q23転座の形成抑制に重要であることが示された。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は、ほぼ予定の通りで研究を進めてきた。INO80がATMのリン酸化直接的標的でないことと、INO80-RAD51の相互作用が明らかになった。また、INO80が11q23転座の形成抑制に重要である実験結果が得られた。
ATM欠損細胞においてRAD51 が11q23転座切断点集中領域に集積していることを我々は報告している。一方、酵母ではRAD51のDNA結合がINO80により制御されていることが報告されている。そのため、INO80によるRAD51の11q23転座切断点集中領域へ集積の関連を検討する予定である。また、INO80がクロマチン変換複合体として機能しているため、今後の推進はINO80のみならずその複合体の構成因子も調べる必要性があると考えている。
本研究では、ゲノム損傷による染色体転座形成の分子機構の解明に、生化学的及び細胞生物的実験方法を用いて取り組んでいる。このために、現在染色体転座切断点集中領域に結合するタンパク質について、クロマチン免疫沈降法を用いて検討を進めている。クロマチン免疫沈降法は従来マニュアルで行ってきたが、最近自動解析装置が開発された。自動解析装置を用いることで、マニュアルで実験を行うより正確性及び再現性が上がることがわかった。このため、申請者が所属する研究室においても、平成27年5月にこの自動解析装置を別経費で導入することになった。クロマチン免疫沈降法では高額の抗体を多量に使用する。このため、本研究における研究費の効率的使用と実験効率の向上のため、平成26年度に予定していたクロマチン免疫沈降法によるDNA 修復関連タンパク質の染色体転座切断点集中領域への結合の一部の検討を平成27年度に行うこととした。
H27年度は、抗体、siRNAの購入及びsiRNAと発現ベクターを細胞に導入する試薬及びゲノム定量PCRに使用する試薬などを購入する予定である。また、研究成果の国内外の学会で発表するとともに論文を投稿する予定である。さらに、研究の効率化を進めるために研究補助1名雇用することがある。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件)
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