染色体転座による遺伝情報の改変は、がん、白血病や先天異常の発生の根本的な原因となりえる。染色体転座は放射線や化学物質などによるDNA二本鎖切断(DSBs)の誘導とその修復エラーにより形成されると考えられているが、その詳細については未だ不明である。我々は、抗がん剤エトポシドによる11q23転座形成をモデルシステムとして、染色体転座形成の分子機構の解明に取り込んできた。本研究は、DSBs修復の制御機構に関連するクロマチン変換複合体INO80と染色体転座形成の関連の解明に取り組んだ リン酸化酵素ATMの欠損細胞においてクロマチン変換因子INO80及び相同組み換え修復因子RAD51が11q23転座切断点集中領域に集積していることと11q23染色体転座形成の関連性を我々は報告している。本研究は、生化学的及び細胞生物学的な研究方法で、INO80がRAD51の11q23転座切断点集中領域へ集積を促進することを明らかにした。また、INO80がATMの直接的標的でないことを判明したと同時に、INO80クロマチン変換複合体の一つ構成因子がDNA 損傷を応じてATMによるリン酸化を発見した。そのリン酸化の意義を検討したところ、この構成因子がINO80のクロマチンへの集積を促進する一方、そのリン酸化されたことによって、INO80及びRAD51の11q23転座切断点集中領域へ集積及びエトポシドによる11q23染色体転座形成を抑制することが観察された。以上の研究結果から、構成因子のリン酸化有無による正または負の調節でクロマチン変換複合体INO80が適当な相同組み換え修復機構を制御することで、修復エラーによる染色体転座形成を防ぐ新しい分子機構を明らかになった。この研究成果はゲノム修復機構を標的とした新しいがん治療法の開発につながることが期待できると考えられる。
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