研究課題
がん遺伝子Rasは、癌の発生において重要な役割を果たすのみならず、栄養源となる細胞外タンパク質の取り込みを促進し、細胞外基質への浸潤応答を誘導することで、がんの悪性形質転換に関わっている。これらの細胞応答はいずれもRacを介したアクチン細胞骨格の再構成が必要である。本研究において、変異Rasによって形質転換した細胞において、Rac特異的グアニン・ヌクレオチド交換因子であるDOCK1を遺伝的に欠損させると、マクロピノサイトーシスに依存した栄養源の取り込みや浸潤応答が、抑制されることを見いだした。そこで、20万を超える化合物ライブラリーをスクリーニングし、構造最適化を行うことで、1-(2-(3 '-(トリフルオロメチル)-[1,1'-ビフェニル]-4-イル-2-オキソエチル)-5-ピロリジニルスルホニル-2(1H)-ピリドン(TBOPP)というDOCK1選択的阻害剤を開発した。TBOPPは、DOCK1と構造的に類似したDOCK2およびDOCK5タンパク質の機能を損なうことなく、DOCK1を介したがん細胞の浸潤応答やマクロピノサイトーシス、グルタミン欠乏条件下での生存を抑制した。さらに、TBOPPを投与することで、マウス個体における癌の生着や転移が顕著に抑制された。以上の結果は、DOCK1選択的阻害剤が、癌の生存や浸潤を標的とした新たな治療薬になりうることを実証するものである。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件)
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