研究課題
これまで、申請者らは腫瘍内低酸素環境が、糖転移酵素ST6GalNAc-Iの発現を誘導し、がん関連糖鎖であるシアリルTn (sTn)抗原の発現を上昇させる事を発見した。さらにsTn抗原ががん細胞の接着・浸潤を亢進させる事により、転移を促進する機能分子である事を明らかにしてきた。さらに、ST6GalNAc-Iの導入によりsTn抗原を発現する細胞では、インテグリンシグナルを介してAktの活性化、Nrf2の核内移行、抗酸化酵素Hemeoxygenase (HO-1)遺伝子プロモーターの活性化、HO-1タンパク質の発現誘導することを発見した。加えて、スーパーオキサイドの消去酵素であるSuperoxide dismutase 2 (SOD2)の発現も誘導され、これら抗酸化酵素が細胞内の活性酸素除去によりsTn抗原発現細胞が酸化ストレス耐性を獲得する事を発見した。一方、sTn抗原発現細胞では 液性分子の分泌が亢進し、周辺がん細胞の増殖速度の低下や浸潤能の低下を誘導することを示唆する結果を得た。これらは低酸素曝露に応じてがん細胞が周辺細胞の環境調節を行っている事を示唆するものである。これらインテグリンシグナルの活性化を契機とする細胞機能メカニズムでは、sTn抗原によるコラーゲン分子との相互作用の増強がインテグリン分子の安定化及び、発現量の増加を引き起こし、シグナルが増強されることが重要であることが判明した。
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