研究課題
種々のヒトがん組織の浸潤先進部位では基底膜分子ラミニン332の構成鎖の一つであるγ2鎖(Lmγ2)が過剰に発現する。最近私たちは、Lmγ2ががん細胞の浸潤性増殖を促進すること、がんの上皮―間葉移行(EMT)に伴って発現誘導されること、がん幹細胞マーカーであるCD44に作用することなどを見いだした。本研究では特にLmγ2とCD44との相互作用を解析し、以下の成果が得られた。1)Lmγ2は良性乳がん細胞MCF-7に比べて転移性乳がん細胞MDA-MB-231に高率に結合した。MDA-MB-231細胞表面に存在するLmγ2受容体の分析からがん幹細胞マーカーであるCD44分子が同定された。MDA-MB-231細胞の全CD44含量はMCF-7細胞に比べてはるかに高いことが判明した。2)Lmγ2のCD44結合部位は最N末領域であるドメインVのEGF様リピート2/3と同定された。当初Lmγ2が結合するCD44はヘパラン硫酸鎖をもつCD44v3と想定されたが、精製タンパク質を用いた分析において糖鎖をもたない標準型(CD44s)にも結合した。3)Lmγ2のMDA-MB-231細胞への結合はCD44の細胞内領域のリン酸化を促進し、細胞移動を促進した。この作用はCD44中和抗体やRNAi処理によって阻害された。以上の結果から、Lmγ2の浸潤促進活性はCD44を介すること、すなわち2種のがん細胞マーカーであるLmγ2とCD44が相互作用し、生体内でのがん細胞の浸潤転移を促進する可能性が強く示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
初年度の研究において、2種のがん細胞マーカーであるLmγ2とCD44が直接的に相互作用し、細胞移動を促進することが明らかになった。乳がん細胞ではLmγ2のがん細胞への作用はCD44含量が高く、より悪性な細胞で顕著であることが判明した。このことはLmγ2とCD44が協調的にがんの浸潤転移を促進することを示唆する。これらの成果は当初の予想を超える意義あるものと評価される。ただ、Lmγ2がCD44のリン酸化を促進するという結果は得られたが、Lmγ2ががん細胞の浮遊増殖能や抗がん剤耐性を促進するという結果は得られていない。従って、Lmγ2ががん幹細胞の機能の維持に寄与するかどうかは不明である。今後さらに検討する必要がある。
すでに、Lmγ2N末端領域ががん細胞のマウス体内での浸潤を促進することや、in vitroでの血管内浸潤を促進することを報告している。本研究ではさらに、Lmγ2ドメインVの重要性が明確になった。私たちはLmγ2N末端領域に対する多数のモノクローナル抗体をすでに作製している。これらの抗体を用いた予備的な分析からLmγ2N末端断片ががん細胞の培養上清やヒトがん組織検体で検出されている。今後これらの抗体の悪性がんの血液診断や病理組織診断への応用性を検討する。
予定金額で雇用できる実験可能な人材をみつけることができなかったため。
残金107,304円は次年度物品費に繰り入れて使用する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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