研究課題/領域番号 |
26430119
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研究機関 | 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所) |
研究代表者 |
宮崎 香 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所), その他部局等, その他 (70112068)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ラミニン / ラミニンγ2 / がん浸潤 / がん幹細胞 / がんマーカー / CD44 |
研究実績の概要 |
ヒトがん組織の浸潤先進部位では基底膜分子ラミニン332の構成鎖の一つであるγ2鎖(Lmγ2)が過剰に発現し、それはがんの悪性度や患者の予後と関係する。最近、Lmγ2ががんの上皮―間葉移行(EMT)に伴って発現し、がん細胞の浸潤性増殖や血管の透過性を促進することなどを見出した。さらに昨年度、Lmγ2の最N末領域であるドメインVががん幹細胞マーカーであるCD44分子に結合して細胞移動を促進することを明らかにした。Lmγ2のN末領域を認識する抗体が市販されていないことから、本年度はマウスモノクローナル抗体を自作し、以下の研究を行った。1)Lmγ2は通常その短腕部のドメインIIIのN末端側で切断され、N末側ドメインVおよびIVからなるγ2pf(45kDa)を遊離する。このγ2pfを抗原としてマウスを免疫し、ドメインV、IVを認識する多数の抗体クローンを樹立した。それらの中から、免疫ブロッティングや免疫染色が可能な抗体を選別した。さらに2個の抗体クローンを選び、数ng/mlレベルのγ2鎖N末端断片を検出できるSandwich ELISA系を樹立した。2)上記抗体を用いてLmγ2のN末端断片の解析を行った結果、多くの培養がん細胞ではγ2鎖はプロテアーゼにより切断され、γ2pfとドメインV断片を多量に分泌した。一方、ヒト肺がん組織ではドメインIIIのC末端部分で切断されて生じた70-80kDaのγ2短腕断片やドメインV断片が主に検出された。以上から、CD44分子に結合するドメインV断片が生体内でも産生されることが明らかになった。3)ヒト肺がん組織の免疫染色において、γ2pf抗体が浸潤性がん細胞を検出できることが明らかになった。4)作成したSandwich ELISA系ががん患者血清中のγ2鎖N末端断片を検出できることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで抗体を用いたLmγ2鎖の分析が広く行われているが、それらのほとんど全てはドメインIIIを認識する抗体であり、プロテアーゼ切断部位からN末端側断片の産生や分布は全く知られていない。今回新規抗体を用いて最N末端のドメインV断片が培養系およびがん組織中で産生されることを示した意義は大きい。がん組織中のドメインV断片がCD44に作用してがんの浸潤やがん幹細胞機能に影響するという仮説を支持する結果と言える。さらにこれらの抗体を用いた免疫染色やELISAががんの病理診断や血清診断に有望であることが明らかになった。今後それらをさらに明確にしたい。全体として予定された研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
すでに、Lmγ2鎖N末端領域、特にドメインVが、がん細胞表面のCD44分子に結合して細胞移動を促進することや、血管内皮細胞に作用して血管透過性を促進することを報告している。平成27年度の研究でドメインV断片がLmγ2発現がん細胞のほとんどで産生されることやがん組織中にも存在することが明らかになった。作製したγ2pf抗体が免疫染色やELISA分析に有望であることから、平成28年度の研究では免疫染色によってγ2pfおよびドメインV断片の肺がん組織内での分布を詳細に調べ、それらの存在とがんの浸潤能との関係を明らかにする。またこれらのLmγ2N末端断片を定量できる高感度ELISA系が樹立されたことから、できるだけ多数の健常者およびがん患者血清を入手して、がんの新規血清診断としての有効性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
ラミニンγ2鎖N末端断片を検出できるSandwich ELISA系を樹立し、患者血清中のγ2鎖N末端断片の分析を計画したが、患者血清の入手が予定通り進まなかったため、ELISA系の作製のための費用が少額で済んだのが主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
できるだけ多くの患者血清を集めて分析するためのSandwich ELISA系作成費用に使用する予定である。
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