研究課題
ヒトがん組織の浸潤先進部位では基底膜分子ラミニン(Lm)332の構成鎖の一つであるγ2鎖(Lmγ2)が過剰に発現し、それはがんの悪性度や患者の予後と関係する。本研究において既に、Lmγ2の最N末領域であるドメインV (dV)ががん幹細胞マーカーであるCD44分子に結合して細胞移動を促進することを明らかにした。さらにγ2鎖の主要なN末端プロテアーゼ断片(γ2pf)に対するマウスモノクローナル抗体を自作し、それを用いてdVを含む多くのN末端断片が種々の培養ヒトがん細胞およびヒトがん組織で産生されることなどを明らかにした。平成28年度の研究においてはγ2dV抗体(クローンP2H)および既製の3種のLm332抗体を用いて、Lm332構成鎖の種々のヒト肺がん組織における発現分布などを調べた。先ず、N末端断片の産生にMMPとセリンプロテアーゼが関与することが判明した。免疫染色の結果、過去に私たちが作製し、広く世界で使用されているLmγ2抗体であるD4B5に比べて、P2H抗体が浸潤性がん細胞および周囲の間質組織を強く染色した。D4B5はγ2pfよりC末端側を認識することから、P2H抗体で検出される、dVを含むプロテアーゼ断片が組織中でより安定に存在し、がん細胞の浸潤能に寄与することが推測された。他の抗体を用いた結果から、浸潤性がん細胞ではγ2鎖に加えてβ3鎖が、また、がん間質ではγ2鎖に加えα3鎖が過剰に発現することが明らかになった。一方、dV断片に対する高感度のサンドイッチELISA系を作成し、肺がん患者血清を分析した結果、特にステージIII以上の肺がん患者血清中でγ2dV断片が有意に増加した。以上から、初めて作製されたγ2dV抗体が肺がん組織の病理診断に有効であるだけでなく、がんの血清診断への応用性が考えられた。
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Cancer Sci.
巻: 107 ページ: 1909-1918
10.1111/cas.13089