研究課題/領域番号 |
26430120
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
江島 耕二 北里大学, 医学部, 准教授 (30327324)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 骨髄由来免疫抑制性細胞 / NF-kB-inducing kinase |
研究実績の概要 |
本研究課題の最終目的は,担癌や慢性炎症により末梢に誘導される骨髄由来抑制性細胞(MDSC; Myeloid-derived suppressor cell)の発生機序について知見を得ることである。リンパ球の機能や増殖を抑制することが知られているMDSCは,腫瘍や慢性感染症治療のターゲットとして注目されているものの,その発生機構については不明な点が多い。我々はNF-κB活性化代替経路に重要な役割を果たすNIK(NF-κB-inducing kinase)の遺伝子に機能欠損型の変異をもつマウスalymphoplasiaマウスで,MDSC様の表現型をもつ(CD11b+/Gr-1+)細胞が,脾臓や末梢血中に自然蓄積することを観察した。aly/alyマウスをRAG-2欠損マウスと交配し,リンパ球が成熟できない背景にすると,この細胞の蓄積が見られなくなることから,この細胞の誘導にはリンパ球が関与していると考えられる。そこで今回,aly/alyマウスにおけるMDSC様細胞の誘導に,CD8+ T細胞やNKT細胞が寄与しているかどうかを解析するために,aly/alyマウスをβ2ミクログロブリン(b2M)遺伝子欠損マウスと交配し,b2M欠損aly/alyマウスを作成した。このマウスの脾臓と末梢血中のMDSC様細胞を,b2M (+/-) aly/alyマウスと比較解析を行ったところ,Ly6Clo+/Ly6G+細胞,Ly6Chi+/Ly6G-細胞,どちらのサブセットについてもその割合に有意差は見られなかった。この結果はaly/alyマウスにおけるMDSC様細胞の蓄積にCD8+T細胞やNKT細胞は必須でないことを示唆している。また,CD4+T細胞の重要な細胞機能分子であるCD154欠損aly/alyマウスでは自己免疫疾患発症は大きく遅れるものの,MDSC様細胞の蓄積はCD154正常のaly/alyマウスと同様に見られることから,MDSC様細胞の誘導にはCD154の関与も不可欠ではないと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度,b2M欠損マウスやCD154欠損マウスとaly/alyマウスの交配も順調に進み,無事に目的のマウス作成が達成された。このマウスの解析により,aly/alyマウス中のMDSC様細胞誘導に必要なリンパ球について,重要な知見を得ることができた。MDSCのマーカーに関して新たなものが報告されつつあり,それらに対する抗体での追加検討も行っているが,現在のところ,マウスの維持についても問題なく行うことができている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はRAG2-KO aly/alyマウスにaly/alyマウスの脾臓細胞を移入することでMDSC様細胞が誘導されるようになるかどうかを観察したい。もしこの系で誘導することが可能となれば,aly/alyマウスにおけるMDSC様細胞の蓄積に必要な細胞の同定は非常に容易になることが期待される。移入する脾臓細胞中のMDSCと新たに誘導されるMDSC様細胞とを区別するために,現在,GFP-Tg RAG-2欠損aly/alyマウスを作成している。このマウスにaly/alyマウスの脾臓細胞を移入することで,GFP陽性のMDSC様細胞が誘導されるか否かの検討を行う予定である。また,RAG2-KO aly/alyマウスとaly/+マウスに腫瘍を移植することにより,aly/alyマウスでは腫瘍によるMDSCの誘導にも何らかの違いがあるかどうかを検討したい。正常マウスにおける腫瘍誘導性のMDSCの誘導はリンパ球非依存的であり,リンパ球非依存的なMDSC誘導におけるNIKの役割を解析することができる。また,aly/alyマウス内MDSC様細胞のT細胞活性化抑制機能についての検討もさらに詳細に行う予定である。MDSC様細胞は一部の未熟なミエロイド系細胞と共通の表現型を持っているので,この性質の有無がMDSC細胞の定義として重要となる。今年度,マウスクラスⅡMHC分子(I-Ak)をアロ抗原として認識するTCR-Tgマウスについて,RAG-2欠損背景のマウスが得られた。このマウスでは成熟するすべてのT細胞がTg TCRのみを発現している。このマウスのT細胞をI-Ak陽性の樹状細胞で刺激する系で,MDSC様細胞のT細胞活性化抑制効果について検討したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度,研究費はほぼ計画通りに使用できたが,次年度使用額が72,839円発生した。その一部については納品が予定より遅れ,3月中に間に合わなかったものであるが,現在その試薬も納品され,実験に使用している。今年度生じた残額は来年度の計画には大きく影響しないと考えられ,計画したとおりの使用を予定している。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度もこれまで同様,消耗品とマウス飼育維持費が中心となる。今後新たにマウスを作成する予定はなく,主に現在得られているマウスの維持を行うことになるため,これまでより費用がかかることはないと考えている。消耗品は,抗体や遺伝子操作試薬,細胞培養用試薬が主なものになる予定である。今年度購入分の試薬に一部使い終わっていない分があるが,牛胎児血清等,比較的高価な消耗品を新たに購入する必要が出てこなければ,今年度と同様な使用状況となると考えている。
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