研究課題/領域番号 |
26430122
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
工藤 千恵 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (90424126)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ALCAM / がん転移 / がん幹細胞 / 免疫抑制 / 免疫不全 |
研究実績の概要 |
初年度の研究において、がん細胞におけるALCAM発現は幹細胞性や免疫逃避を制御する重要な機能分子であり、その一方で、担がんに伴って誘導される免疫異常を構成する特定の免疫細胞群にもALCAMは高発現することを明らかにした。つまり、がん微小環境におけるALCAMの分子機能を標的として阻害することで、がん細胞の弱化と同時に、免疫系を正しく修正し得る可能性が示唆されたが、本年度行ったin vivo治療実験によって、その仮説を検証することができた。すなわち、マウスメラノーマB16-F10などを皮下・静脈内移植することで、ALCAM+細胞や可溶型ALCAM(sALCAM)がマウス体内で増加し、免疫系が破綻する同系腫瘍モデルにおいて、ALCAM阻害抗体を皮下腫瘍内に直接投与すると、その皮下腫瘍増殖のみならず、肺転移も有意に抑制され、マウスの生存期間が延長することが分かった。本モデルは、通常の免疫チェックポイント阻害剤には不応答であった。ALCAM阻害は、ALCAM+細胞やsALCAMの増加を全身的に網羅的に抑制できると考えられ、がん微小環境におけるALCAM分子機能を阻害することの重要性が示唆された。一方、sALCAMを用いてCD8+ T細胞を刺激すると、ごく低濃度でもCD8+ T細胞は疲弊状態から細胞死に至ることが分かった。これは、担がん生体内でsALCAMが増加すると抗腫瘍免疫が破綻してしまう機序を説明し得る。また、様々なシグナル阻害剤を用いた解析によって、この機序は、これまで報告されているCD6とのへテロ結合によるERK1/2ではなく、PI3K-Akt-mTORを介していることを見出した。ALCAM-ALCAMホモ結合によるシグナル伝達経路の一部と考えている。以上の結果から、ALCAMを標的とした阻害治療は、がん治療において極めて有用であると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、初年度から前倒しで効率良く進めており、本年度も同様に、申請当初予定していたALCAM分子機能の免疫学的役割だけではなく、次年度に計画していたマウスin vivo治療実験も実施し、担がん生体内におけるALCAM分子の性状を明らかにすることができた。これにより、患者由来の腫瘍組織などを用いた臨床解析を十分に実施できる状況を順調に整えられ、また、本研究の最終目標であるALCAM阻害抗体の開発を実際に進めることにも着手できる体制を整えられた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、マウスで同定したALCAM発現免疫細胞がヒトにおいても免疫抑制性細胞であるのか、ヒト末梢血細胞を用いてそのrelevancyを確認するとともに、様々な病期(Stage I-IV)のがん患者由来原発・転移腫瘍組織などを用いて、がん細胞と免疫細胞におけるALCAM発現と臨床病態との関連性を臨床レベルで明らかにし、将来臨床で展開するALCAM阻害治療の適応症例の予測や選択などに活かしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
ALCAM下流のシグナル伝達経路を解析する際に各種阻害薬を購入する予定であったが、他の研究で別途購入したものを共通で使用したため、購入する必要がなくなった。一方、ALCAMの発現解析で購入を予定している臨床検体について、統計学的解析に十分な数量を確保するためには、予定していた以上に高額を要することが分かった。これらの理由から、一部の研究費を次年度に繰り越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
市販のがん患者由来腫瘍組織切片を統計学的解析に十分な数量だけ購入し、ALCAM発現と臨床病態との関連性を臨床レベルで明らかにする。
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