研究課題
基底膜は細胞外マトリックスからなる非常に薄い膜状の構造体であり、細胞を秩序よく接着させ組織を安定化させている。癌細胞はこの特殊な基底膜を破綻させて、細胞増殖や浸潤・転移に適した細胞外環境として利用するようになる。これまでの癌細胞と基底膜の相互作用についての研究では、基底膜を代替する物質としてマウス肉腫由来のマトリゲルを使用してきた。しかしながら、マトリゲルに含まれるラミニン-111は胎児性のラミニンであり、癌細胞が相互作用することはまれである。このため、マトリゲル基底膜浸潤モデルは、必ずしも成体の基底膜浸潤を反映するものではなかった。平成26年度の研究では、三次元培養法による上皮様組織形成を促し、培養系でより成体の基底膜に近い構造の作成を試みた。その結果、上皮様組織が形成されるにつれて、ラミニンα5鎖を含む成体の基底膜に近い構造体が形成されることを見出した。さらに、この三次元培養法による上皮様組織形成の過程に、組換えラミニン-511を添加すると基底膜の形成が促されると明らかとなった。このことは、ラミニン-511が不足すると基底膜形成が破綻する可能性を示している。また、ラミニン-511の受容体であるルテランは、プロテアーゼによって切断され細胞表面から放出される。この放出されたルテランは、ラミニン-511に対する結合能を保持しており、細胞とラミニン-511の相互作用を妨げていることが明らかとなった。三次元培養法による上皮様組織形成においても、放出されたルテランがラミニン-511に結合することで、基底膜形成を抑制または破綻させる可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
平成 26 年度は、(1)単量体ラミニンα5鎖による基底膜形成への影響、および(2)ラミニンα5鎖受容体ルテランの局在が方向性のある細胞運動に与える影響の解明を目的として研究を遂行した。(1) は、ラミニンα5 鎖を含む組換えラミニン-511やα5 鎖のN末端およびC末端部位を組換え蛋白質として調製しながら、MDCK細胞を用いた三次元培養の実験をおこなった。MDCK細胞には、いくつかの亜株があることが知られている。Cystを形成する細胞株を探索したところ、ATCCより購入したMDCK細胞がマトリゲルの中で効率よく明瞭なCystを形成することがわかった。このMDCK細胞を使用した三次元培養系に、組換えラミニン-511を添加するとCyst形成が促進されることを見出してきている。このことは、ラミニン-511が不足すると基底膜形成が破綻する可能性を示している。(2) 細胞の動きに対するルテランの細胞表面における分布の偏りを捉えるために、免疫蛍光染色を行ったが、強い蛍光により有意な差が得られていない。分布の偏りおよび経時的な観察を可能にするため、SNAP-tagを導入したルテラン発現ベクターを構築し、この組換え蛋白質を発現している細胞株を樹立した。
昨年度に引き続き、(1)単量体ラミニンα5鎖による基底膜形成への影響、および(2)ラミニンα5鎖受容体ルテランの局在が方向性のある細胞運動に与える影響の解明を行う。これまでの研究により、ラミニン-511が基底膜形成を促進することが明らかとなっている。α5 鎖のN末端およびC末端部位組換え蛋白質を添加することで基底膜形成の阻害を試みる。さらに、その組換え蛋白質のアミノ酸配列を網羅する合成ペプチドを作製し、基底膜形成に関与するアミノ酸配列の同定を試みる。昨年度に引き続き、細胞運動アッセイと免疫染色を行いルテランが細胞運動の方向性に与える影響を明らかにする。ルテランの細胞内ドメインには、細胞内シグナル伝達に関与する領域が存在している。この領域に変異を導入した変異型ルテランをHT1080細胞に強制発現させ細胞運動およびその方向性に与える影響を明らかにする。
年度をまたいで論文を投稿中であり、論文投稿費用として繰越金が生じている。また、ウサギポリクローナル抗体を作製するための抗原の調製が遅れているため、抗体作製費用として、繰越金が生じている。
論文投稿費およびウサギポリクローナル抗体作製の費用として使用予定。
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