研究課題
基底膜は細胞外マトリックスからなる非常に薄い膜状の構造体であり、細胞を秩序よく接着させ組織を安定化させている。癌細胞はこの特殊な基底膜を破綻させて、細胞増殖や浸潤・転移に適した細胞外環境として利用するようになる。これまでの癌細胞と基底膜の相互作用についての研究では、基底膜を代替する物質としてマウス肉腫由来のマトリゲルを使用してきた。しかしながら、マトリゲルに含まれるラミニン-111は胎児性のラミニンであり、癌細胞が相互作用することはまれである。このため、マトリゲル基底膜浸潤モデルは、必ずしも成体の基底膜浸潤を反映するものではなかった。これまでに、MDCK細胞を用いた三次元培養法において、ラミニンα5鎖を含む組換えラミニン-511を添加するとより成体に近い上皮様組織の基底膜の形成が促されると明らかにした。さらに、MDCK細胞を肝細胞増殖因子(HGF)で刺激したところ、ラミニンα5鎖の発現が有意に減少し、基底膜様構造が見られなくなった。このことは、ラミニン-511が不足すると基底膜形成が破綻する可能性を示した。このほか、ラミニンの細胞接着部位を合成ペプチドによって模倣し、そのペプチドを高分子膜であるキトサン膜に結合させた基底膜様の機能を持った培養基材の開発を行った。そのなかで、ラミニン由来の細胞接着ペプチドとキトサン膜の間にスペーサーを導入すると細胞接着活性が向上することを見出した。このアプローチは、ラミニンα5鎖の基底膜における癌細胞に対する機能を明らかにするのに役立つと期待される。
2: おおむね順調に進展している
平成 27 年度は、(1)単量体ラミニンα5鎖による基底膜形成への影響、および(2)ラミニンα5鎖受容体ルテランの局在が方向性のある細胞運動に与える影響の解明を行った。(1) は、ラミニンα5鎖N末端の組換え蛋白質を作製し大量調製に成功し、三次元培養系に添加することが可能になった。これまでにラミニンα5鎖N末端にも、細胞接着活性があることが明らかとなってきており、単量体ラミニンα5鎖が基底膜形成に影響するだけでなく、細胞接着を乱している可能性も示唆された。(2) は、細胞の動きに対するルテランの細胞表面における分布の偏りを捉えることを試みているが、有意な差が得られていない。ルテランは細胞内ドメインに細胞内シグナル伝達に関与する領域を持っている。このことから、ルテランの量的な変化よりも、細胞内ドメインの質的な変化が、方向性のある運動に影響する可能性も示唆された。
昨年度に引き続き、(1)単量体ラミニンα5鎖による基底膜形成への影響、および(2)ラミニンα5鎖受容体ルテランの局在が方向性のある細胞運動に与える影響の解明を行い、さらに(3)走化性因子のラミニンα5鎖による方向性のある細胞運動への影響の解明を目指す。(1)では、α5 鎖のN末端およびC末端部位組換え蛋白質を添加することで基底膜形成の阻害を試みる。さらに、その組換え蛋白質のアミノ酸配列を網羅する合成ペプチドを作製し、基底膜形成を破綻させるアミノ酸配列の同定を試みる。(2)および(3)では、走化性因子が刺激するラミニンα5鎖上での細胞運動に方向性があるのかを走化性因子の濃度勾配により検討し、この運動にルテランの細胞内シグナル伝達に関与する領域が関連するかを明らかにする。
年度をまたいで論文を投稿中であり、論文投稿費用が生じている。三次元培養用に使用予定だったチャンバーが受注生産となってしまったため、年度をまたいでの納品となっている。
次年度使用額は論文投稿費用および三次元培養用のチャンバーとそれに伴う細胞培養用の培地および添加剤、ピペット、フラスコ、抗体などの購入に使用する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 備考 (2件) 産業財産権 (1件)
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巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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