研究課題
ヒト正常前立腺上皮細胞およびヒト前立腺癌細胞DU145の全RNAから投げ縄状RNAを濃縮した後、次世代シークエンス解析用ライブラリーを構築、パイロット的に配列を解読した(Lariat-seq)。得られた配列をマッピングしたところ、イントロン投げ縄状RNAの配列よりも、むしろそれとは無関係の短鎖RNA配列が大量に読まれていることが判った。これらの配列の多くは、核内に大量に存在するsnRNAであり、おそらく強くRNAの二次構造をとっている為RNase Rによる分解を逃れたのではないかと考えられた。現在RNaseR処理による投げ縄状RNAの濃縮条件を徹底的に検討し直している。Lariat-seqが困難な状況に直面している一方で、成熟mRNA再スプライシング制御因子の解析では興味深いデータが得られた。今年度我々は膀胱癌の治療にも一般的に用いられ、DNA損傷を引き起こすことが知られるシスプラチンによりTSG101の再スプライシング効率が影響を受けるか検証した。その結果、p53遺伝子に変異を持つT24及び5637細胞株においてはシスプラチン処理後3日目で約2倍と顕著なTSG101の再スプライシング産物の蓄積が認められた。さらにシスプラチン添加後さらに2週間とより長期間培養を続けるとTSG101の再スプライシング産物はコントロールの4倍以上とさらにその影響が増大していた。一方、p53遺伝子が正常であるRT4細胞においてはシスプラチン添加後むしろTSG101の再スプライシング産物は減少していた。すなわちDNA損傷を引き起こすシスプラチンにより成熟mRNA再スプライシングは影響を受けること、成熟mRNA再スプライシング制御因子はp53シグナルによっても制御されることを示している。
3: やや遅れている
Lariat-seqに関しては詳細な条件検討をやり直す必要ができたなど困難な点が多かった一方で、成熟mRNA再スプライシング制御因子解明に関しては、シスプラチンによる影響及びp53シグナルとの関与が明らかになるなど進展が見られた。
Lariat-seqに関しては現在RNaseR処理による投げ縄状RNAの濃縮条件を徹底的に検討し直している。細胞からのTotal RNAの精製法及びRNaseRの精製度向上、RNaseR反応前の熱処理条件の変更により環状RNAの濃縮状況の改善が見られており、実際のシークエンスを行っているところである。低酸素ストレス、抗癌剤シスプラチン処理によりTSG101のmRNA再スプライシングが影響を受けることが明らかとなったことから、これらのストレス処理を施した細胞(正常型p53を持つRT4及び変異p53を持つT24)のトランスクリプトーム解析を行い、それらストレスにより発現量の変化する遺伝子の中から成熟mRNA再スプライシング制御因子の候補を探索していく。解析するにあたってp53シグナルの下流に存在する因子が重要な候補となると予測される。
金額が少額であり、次年度の交付額が今年度までと比べると少なめであるので次年度に使用することとした。
次年度は、消耗品692,275円、旅費144,000円、人件費・謝金32,000円、その他40,000円の使用を予定している。
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