研究課題/領域番号 |
26430125
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
板野 直樹 京都産業大学, 総合生命科学部, 教授 (40257712)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / ニッチ / ストレス耐性 / ヒアルロン酸 |
研究実績の概要 |
がん幹細胞は、従来の化学療法や放射線治療に耐性を示すことから、再発を引き起こす最大の要因と考えられ、根治的治療のための標的として重視されている。がん幹細胞は、ニッチと呼ばれる特殊な微小環境との緊密な連携のもと幹細胞性を維持し、様々なストレスに耐性を発揮して、がんの発生や進展に中心的な役割を果たすとされる。本研究では、「がん幹細胞ニッチにおける変化が、異なったストレス耐性スペクトルを示す不均一ながん幹細胞の出現を促して、がん細胞集団に頑健性を賦与する」という仮説を立て、その検証を目指して研究に取り組んだ。 今年度は、ヒアルロン酸高産生乳がんと対照乳がんから樹立したがん幹細胞を用いて、がん幹細胞におけるヒアルロン酸産生の増加が、遺伝子発現や代謝反応に及ぼす影響について解析した。その結果、ヒアルロン酸高産生乳がん細胞では、対照がん細胞に比して、細胞内におけるヘキソサミン合成経路の代謝流束が加速していた。ヘキソサミン合成経路は、ヒアルロン酸合成基質であるUDP-N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)糖供与体の生合成反応経路であり、ヒアルロン酸合成の調節に働くとともに、他の複合糖質の生合成やタンパク質O-GlcNAc修飾の調節に働き、細胞動態を広範に制御していることが知られている。ヘキソサミン合成経路は、また、細胞の栄養センサーとして重要であり、細胞内代謝の調節に働く。従って上記結果は、ヒアルロン酸がヘキソサミン合成経路を介して、がん幹細胞の特性を制御している可能性を示唆している。今後、ニッチ構成要素としてのヒアルロン酸が、ヘキソサミン合成経路を介してがん幹細胞の出現を誘導する機構について解明を進めるとともに、がん幹細胞脆弱化のための技術基盤の確立を通じて、本研究の目標達成を目指す予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究項目のうち「ニッチの質的変化が性質の異なるがん幹細胞の出現を誘導する機構の解明」については、研究計画に従って実験を進め、ヒアルロン酸高産生乳がんと対照乳がんから樹立したがん幹細胞を用いて、遺伝子発現や代謝反応について解析し、当初目標の一部を達成した。そしてこれまでに、ニッチ構成要素であるヒアルロン酸の産生が、がん細胞に上皮-間葉転換を誘導して、がん幹細胞性の制御に働くことを明らかにしている。また、細胞外分泌シグナル分子であるTGF-βとTNF-αが、ヒアルロン酸刺激下に発現亢進していること、そして、ヒアルロン酸高産生乳がん細胞では、細胞内におけるヘキソサミン合成経路の代謝流束が加速していることを明らかにしている。しかし、前年度に実施した研究の遅れから、当初予定していた実験計画の一部についてその実施を次年度以降に見送った。以上の理由により、研究計画に若干の遅れが生じている。今年度、実施を見送った研究は、平成28年度での実施を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
現在、研究に遅れが生じているため、次年度の計画を一部変更して効率的な計画実施に努める。平成28年度は、前年度持ち越しの研究を継続して実施するとともに、当初計画にある「ニッチの多様性を喪失させる技術基盤の確立」について実験を実施する。なかでも抗がん剤耐性に多様性をもたらす機構の解明を早期に実現し、ニッチ構成要素であるヒアルロン酸との関係解明を進める。そして、ヒアルロン酸シグナルの遮断により、がん幹細胞脆弱化のための基盤技術を開発する。このため、実験補助員を順次採用し、当初計画していた研究体制を速やかに構築した後、今年度未実施の研究項目について対応するとともに、当初予定の計画についてもその完遂を目指す。また、研究課題のうち代謝反応の解析に遅れが生じているため、受託あるいは共同研究として体制を強化し、遅延の解消に向け取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に実施した研究の遅れから、当初予定していた実験計画の一部についてその実施を次年度に見送った。その結果、消耗品費として計上していた費用の一部が未使用となった。また、受託研究が未実施となり、その他として予算計上していた費用の一部が未使用となった。平成27度は、実験補助員の採用が年度後半までずれ込んだことにより、執行を予定していた実験補助員に係る費用の一部が未使用となった。以上の理由により、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、未実施の研究計画を当初期間内に完了するため、実験補助員の勤務時間を当初計画より延長し、これに係る費用を増額して対応する。また、実験計画の見直しに伴って消耗品費の増加が見込まれるため、今年度未使用額を加算した額を計上して対応する。今年度未使用額の一部については、次年度での受託研究に係る費用に充当する。
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