研究課題/領域番号 |
26430125
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
板野 直樹 京都産業大学, 総合生命科学部, 教授 (40257712)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / ニッチ / ストレス耐性 / ヒアルロン酸 |
研究実績の概要 |
本研究では、「がん幹細胞ニッチにおける変化が、異なったストレス耐性スペクトルを示す不均一ながん幹細胞の出現を促して、がん細胞集団に頑健性を賦与する」という仮説を立て、その検証を目指して研究に取り組んだ。 昨年度までに我々は、がん幹細胞におけるヒアルロン酸産生の増加が、細胞内におけるヘキソサミン合成経路の代謝流束を加速することを明らかにしている。ヘキソサミン合成経路は、ヒアルロン酸糖供与体である細胞内UDP-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)の生合成反応経路であり、ヒアルロン酸合成の調節に働くとともに、他の複合糖質の生合成やタンパク質O-GlcNAc修飾の調節に働き、細胞動態を広範に制御している。そこで本年度は、ヘキソサミン合成経路の律速酵素であるGlutamine fructose amidotransferase 1 (GFAT1)遺伝子の過剰発現あるいはノックダウン細胞を作製して、ヘキソサミン合成経路ががん幹細胞性の制御に働く機構の解明を試みた。その結果、GFAT1過剰発現細胞では、がん幹細胞性の制御に重要とされる低酸素誘導因子HIF-1のシグナルが活性化していることが明らかとなった。一方、GFAT1の遺伝子の発現抑制は、HIF-1シグナルとがん幹細胞性を共に抑制した。このことは、ヒアルロン酸がヘキソサミン合成経路を介して、がん幹細胞性を制御していることを示唆している。今後、酸化ストレスや抗がん剤等種々のストレスに対する耐性の発現に、ヘキソサミン合成経路の関与を明らかにして、ヒアルロン酸ががん幹細胞のストレス耐性を制御する機構の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究項目のうち「ニッチの質的変化が性質の異なるがん幹細胞の出現を誘導する機構の解明」については、研究計画に沿って実験を進め、当初目標を達成した。具体的には、ヘキソサミン合成経路の律速酵素GFAT1遺伝子の過剰発現あるいはノックダウン細胞を作製して、ヘキソサミン合成経路が低酸素誘導因子HIF-1のシグナルを調節して、がん幹細胞性の制御に働くという新たな機構を解明した。この研究成果は、国際誌Journal of Biological Chemistryに学術論文として発表した。また、国内学会において2件の発表を行った。しかし、当初予定していた実験計画「ニッチの多様性を喪失させる技術基盤の確立」については、前年度までの研究の遅れに加えて、動物試験を中心に研究遂行に想定以上の時間を要しているため、研究計画に若干の遅れが生じている。そこで未実施の研究は、研究期間を延長して、平成29年度での実施を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
現在、研究に若干の遅れが生じているため、研究期間を一年間延長して対応する。平成29年度は、前年度未実施の研究計画を実行に移すとともに、効率的な計画実施に努め、当初計画にある「ニッチの多様性を喪失させる技術基盤の確立」について目標の達成を目指す。なかでも、抗がん剤などのストレス耐性に多様性をもたらす機構の解明を早期に実現し、ニッチ構成要素であるヒアルロン酸との関係解明に注力する。そして、ヒアルロン酸の下流シグナルの遮断により、がん幹細胞脆弱化のための基盤技術を開発する。以上の実施内容については、既に阻害剤や抗がん剤を用いた実験を進めており、平成29年度にほぼ完了する見込みである。実験補助員を継続的に採用し、さらに研究協力者を追加して、当初計画していた研究体制を維持・強化し、研究計画の速やかな完遂を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画のうち一部の計画を除き、実験を実施あるいは完了した。しかし、研究開始時に研究補助員の採用が不調に終わったことを受け、研究開始時期が遅延し、そのため研究計画が順次先送りとなっている。また、研究項目のうち「ニッチの多様性を喪失させる技術基盤の確立」については、前年度までの研究の遅れに加えて、動物試験を中心に研究遂行に想定以上の時間を要しているため、研究計画に若干の遅れが生じている。研究開始時の実験補助員の採用がずれ込んだことにより、執行を予定していた実験補助員に係る人件費が年度を越えて順次先送りとなっている。また、実験計画の見直しに伴って、消耗品費や研究成果の発表に係る旅費・論文作成費・投稿費の一部が未使用となった。以上の理由により、次年度使用額が発生している。
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次年度使用額の使用計画 |
未実施の研究を期間内に完了するため、実験補助員2名の雇用に係る人件費を計上する。また、実験計画の見直しに伴って必要となる生化学実験や分子生物学実験、細胞培養のための消耗品については、物品費を計上して対応する。研究最終年度となることから、国内外学会における研究成果発表のための旅費や論文作成・投稿に係る費用を計上する。
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