研究実績の概要 |
【目的】本研究課題では、大腸癌切除検体から各患者固有の大腸癌幹細胞様細胞株を樹立し、以下のことを明らかにすることを目的とした。 (1) 大腸癌幹細胞様細胞株の樹立とそのプロファイリング 遺伝的背景や変異などが症例ごとに異なる大腸癌組織から、効率的に癌幹細胞様細胞株を樹立する方法を検討する。樹立された大腸癌幹細胞様細胞株を用いて、大腸癌の発生・進展に深く関与していると考えられているWntシグナル伝達系遺伝子やKras遺伝子群などを含めた遺伝子変異解析や網羅的遺伝子発現解析により細胞株間で比較検討する。 (2) 大腸癌幹細胞様細胞株の各種抗腫瘍薬剤に対する薬効評価 上記(1)により得られた大腸癌幹細胞様細胞株の遺伝子変異解析および発現解析データと、薬効評価を組み合わせて、遺伝子情報に基づいた新しい治療戦略を生み出すことができるかどうかを検討する。【結果】数種類の培養法を検討した結果、効率の良い樹立法が確立でき、安定して大腸癌細胞株を樹立することが可能となった。これまでに大腸癌切除検体から各患者固有の大腸癌幹細胞様細胞株213株を樹立した。さらに、APC, p53, PTEN, Kras, Braf, PIK3CAなどを含めたターゲットシークエンスを行い、各細胞株の遺伝子変異状況を明らかにした。その上で、これらの細胞株の各種抗腫瘍薬剤(EGFR阻害剤、VRGF阻害剤、FGFR阻害剤、mTOR阻害剤、PI3K阻害剤、MEK阻害剤など)に対する薬剤感受性を検討したところ、特に、Kras変異細胞株では、Krasの下流を抑制するMEK阻害剤を併用することで、薬剤感受性がいくつかの群に分別することができることがわかり、感受性良好群も見出すことができた。臨床上、Kras変異大腸癌では、治療レジメンが限定されるため、今回の解析結果は、新たな治療戦略を考案していく上で、重要な結果であると捉えている。
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