研究課題/領域番号 |
26430132
|
研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
豊田 武士 国立医薬品食品衛生研究所, 病理部, 室長 (50443453)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 胃がん / 除菌 / 慢性胃炎 / DNA修復 / ヘリコバクター・ピロリ / スナネズミ |
研究実績の概要 |
ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)除菌治療は胃がんの予防に一定の効果を示すが、除菌後にも胃がんが生じることが知られており、新たな対応が求められている。本研究では、スナネズミモデルを用いて、除菌後の胃粘膜における炎症・DNA修復関連因子の発現動態を検索し、除菌後胃がんの発生機序解明およびハイリスク群の検出に有用なマーカーを探索することを目的とする。 平成27年度は、スナネズミモデルからの胃粘膜採取および解析を行った。5週齢、雄のSPFスナネズミにピロリ菌を胃内接種し、胃発がん物質としてN-methyl-N-nitrosourea(MNU)を20週間飲水投与した。開始27週(早期)または37週(後期)に除菌を実施し、22週・32週・42週・52週目に動物を解剖し、胃粘膜を採材した。各個体における除菌の成否は、ヘリコバクター選択培地によるコロニー形成能、およびRT-PCR法によるピロリ菌UreA遺伝子発現の有無によって判定した。 胃粘膜の病理組織学的解析を行い、除菌によって胃がんの発生率が低下することを確認した。また、除菌後胃がんとDNA修復機構との関係を検索するため、γH2AXを含むDNA修復因子について免疫組織化学的解析を開始した。 一方、背景胃粘膜の経時的解析により、慢性胃炎は除菌によって著しく減退するものの、炎症性病変は除菌後にも一定程度残存することが明らかとなった。残存する炎症と除菌後胃がんとの関連を検索するため、胃粘膜における各種炎症関連因子のmRNA発現を解析した。その結果、Il-1β・Tnf-α等の発現は除菌後速やかに低下するのに対し、Il-6・Ifn-γの低下は比較的緩やかで、MNU投与群での発現が非投与群よりも高いことが示された。この結果は、除菌後における炎症性サイトカインの継続的な発現が発がんに関与する可能性を示唆するものであり、さらなる検討が必要と思われた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の実施計画として、スナネズミ胃粘膜の採材、各グループにおける胃がんの発生頻度、背景胃粘膜の病理組織学的解析、胃発がんおよびDNA修復に関連する因子の発現検索等を設定した。解剖は予定通り終了し、胃がん発生頻度は除菌によって低下することを確認した。背景胃粘膜の解析において、除菌後にも炎症性病変が一定程度残存することが確認されたため、胃粘膜における炎症関連因子のmRNA発現解析を実施した。これに平行して、DNA修復関連因子の免疫組織化学的解析にも着手している。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の実施計画通り研究を進めてゆく。平成28年度は、これまでに得たスナネズミ胃粘膜サンプルを用いた解析を続行し、除菌後胃がんの発生機序における各種炎症およびDNA修復関連因子の関与について、総合的に検討を加える。 1.胃粘膜における炎症・DNA修復関連因子のmRNA発現について、解析を継続する。特に関与が疑われる因子については、凍結胃サンプルを用いたウェスタンブロット法によるタンパク質レベルでの発現解析を実施する。 2.胃がん組織および背景胃粘膜におけるDNA修復因子の発現を解析するための、免疫組織化学的検討を継続する。 3.上記の解析により得られた情報を元に、除菌後の胃がん発生機序における炎症性病変およびDNA修復機構の関与について、総合的に検討を加える予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度中に購入する予定であった一部の実験用試薬について、段階的な実験計画に合わせて購入後の保存期間を一定にするため、次年度に購入することとしたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
実験用試薬の購入費に充てる。
|