研究実績の概要 |
本研究の目的は、神経内分泌腫瘍(NET)発症のメカニズム解明と、NET治療・診断に役立つ成果を得る事である。我々は、機能未知であったPHLDA3遺伝子が、新規のAkt抑制因子である事を見いだし、肺と膵臓のNETにおいて、がん抑制遺伝子として機能している事を明らかにした(Cell, Vol. 136, pp. 535-550, 2009)。我々は、PHLDA3が様々な組織に由来するNETのがん抑制遺伝子であると考えており、PHLDA3によるAkt抑制がNET抑制において中心的な役割を持つと考えている。そのため、PHLDA3遺伝子のLOHが認められた患者にはAkt経路の阻害剤が著効する可能性があると考えている。さらに、PHLDA3遺伝子のLOHはNET患者の予後と強い相関があり、PHLDA3遺伝子のLOH診断により、患者予後の予測ができるようになる可能性がある。本研究を進める事により、NET患者の個別化医療に貢献出来ると考える。 これまでの我々の研究から、肺のNETではPHLDA3遺伝子が高頻度に欠損していることが明らかになっている。また、膵NETは発症率が膵臓がん全体の約2%前後という珍しいがんであるが、当研究所で集めた55個のサンプル全てに対してLOH解析を行ったところ、63%にLOHが認められ、非常に高頻度にPHLDA3遺伝子の異常が起きている事が明らかとなった。また膵NETでは、LOHに加えて、PHLDA3遺伝子プロモーターのメチル化が起きており、PHLDA3遺伝子がLOHとメチル化という2 hitにより機能が損なわれている事が示された。以上の事から、PHLDA3が膵NETの重要ながん抑制遺伝子として機能する事が示唆された。
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