がんは、発生要因が多様で不均一、かつ形質変動も伴うため、化学療法で一度縮退が見られても薬剤耐性化により再発・進行してしまう場合がある。そこで本研究では不均一性が特に高い卵巣がんを対象に、種々の抗がん剤が、個々のがん細胞に与える変動を解析することで、感受性を維持し悪性度の低い状態に長く留めるためのオーダーメード投薬法を導き出すストラテジーの開発を目的とした。 病理組織型・増殖因子感受性・薬剤感受性が異なる細胞、卵巣がんとの関連が示唆されている遺伝子変化・がん幹細胞様populationが認められる細胞などを複数用い、初回・二次化学療法で用いられる薬剤や、卵巣がん発生との関連が示唆されているシグナル伝達経路を阻害する分子標的薬群を数か月間継続処理し、薬剤耐性細胞を複数得た。薬剤処理の前後で、50%増殖阻害濃度測定、増殖速度測定、wound healing assayなどを検討した。 その結果、耐性化しやすい細胞・薬剤に傾向が見られ、耐性化薬剤との併用で相乗効果が得られる組み合わせを見出した。また、ある薬剤に耐性となった細胞で、他の薬剤に対しより感受性を示したものもあった。さらに、耐性細胞に対して種々薬剤処理をし、新たな耐性克服薬選出の検討も行った。一方で、より効率的に薬剤感受性を保持させるべく、がん化に関わる因子を変動させる薬剤の検討を行い、見出すことができた。 最終段階として、上記の薬剤感受性、がん化因子変動の要因を見出すため、種々解析を行った。その一環として、臨床応用されているいくつかの薬剤に耐性になった細胞についてマイクロアレイ解析を行った。その結果に基づき、ある遺伝子産物の阻害剤を用いたところ、薬剤耐性を減弱する効果が認められた。以上により、薬剤耐性化しやすい細胞・薬剤の情報や、耐性化した場合に次に処理するべき薬剤の選出、すなわちオーダーメード投薬法についての情報が得られた。
|