研究課題
癌患者にアミノレブリン酸(ALA)を投与することにより腫瘍特異的にポルフィリンが蓄積することが知られており、これを利用した癌の診断が広く用いられている。これまでの研究により、この腫瘍特異的なポルフィリン蓄積にはポルフィリン生合成経路における低分子代謝異常が起きていることが指摘されているが、その詳細は明らかとされていない。そこで本研究では癌におけるこれらの代謝異常の全容を明らかとすることを目的とした。昨年度は代謝異常に関する分子の中で中心的と思われる関連トランスポーターの同定を行った。その結果、従来関連が認められていたPEPT1やABCG2の他にABCB6が新たにポルフィリン前駆体排出トランスポーターとして機能していることが明らかとなった。さらに鉄イオン代謝の影響も詳しく調べた。その結果、ポルフィリンに挿入される鉄イオン濃度がポルフィリン蓄積に大きな影響を与えていることが分かった。そこで本年度はこれらの知見を踏まえ、診断効率をあげるためにトランスポーターの阻害剤の開発ならびに鉄イオン濃度のコントロールについて焦点を定めた研究を行った。その結果、ポルフィリン排出トランスポーターであるABCG2を阻害する薬剤を用いることによって、ポルフィリン蓄積量を飛躍的に向上させることに成功した。さらに鉄を共添加することによって正常細胞へのポルフィリン蓄積を低減させることに成功し、腫瘍選択性を向上させることを明らかとした。このように昨年度に低分子代謝異常の重要な鍵となる二つの因子を発見・同定したことを受け、今年度はこれらを利用して診断効果を向上する新規な方法論を開発した。来年度は実際の腫瘍選択性を詳細に検討する予定である
2: おおむね順調に進展している
本研究はアミノレブリン酸投与後の低分子代謝異常の解明を行い、光線力学診断法の確立を目指すものである。本年度の目標は「光線力学診断法の確立」としていたが中心的な役割を果たすトランスポーター・鉄イオン代謝異常を発見し、診断効果を向上させる方法論を示せたと言える。以上のことから当初の計画に対しておおむね順調に進展していると考えている。
アミノレブリン酸投与後の低分子代謝異常について二つの大きな知見がこれまでの研究で得られ、これに立脚した診断効果を向上させる方法論が開発できたと言える。具体的には次の二点である。(1)ターゲットとなるトランスポーターが同定できたため、トランスポーター阻害剤の設計ができた。トランスポーターを阻害することによって細胞内ポルフィリン蓄積量が飛躍的に増大することが明らかとなった。(2)鉄イオン濃度をコントロールする手法を検討した。鉄イオンを追加投与することによって、ポルフィリン蓄積量の腫瘍選択性をあげることができた。上記二点を軸としたさらなる検討を行い、低分子の代謝異常を用いた光線力学診断法の確立を目指してゆく。
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