研究課題
がん(悪性腫瘍)は日本人の死亡原因の第1位で、約1/3を占めている。このがんで死に至るケースのほとんど(9割)で、がん転移を起こしていることが知られている。原発巣での外科治療や化学療法によるコントロールに成功しても、最終的に転移巣が大きくなって予後不良となる。がん転移を早期に発見する有効な手段はほとんどなく、簡便で低コストでかつ効率よくスクリーニングする方法が求められている。そこで、がん転移の早期検出法として、代謝物(生体内低分子化合物)プロファイルを利用することを考えた。がん転移に特徴的な代謝物プロファイルを得るために、質量分析計を用いたヒト細胞メタボロミクス解析システムの確立を行った。質量分析計としては、ガスクロマトグラフィー-質量分析計であるGCMS-QP2010 Ultra(島津製作所)を用い、約80種類の水溶性代謝物(アミノ酸、有機酸、脂肪酸等)の検出が可能となった。この解析法を、がん転移を誘導したヒト乳がん細胞由来のMCF7に用いたところ、明確にグループ分けでき、いくつかの代謝物に統計的に有意な変動があることが示唆された。この方法は、少量のサンプルで実施できるので、健康診断で採取する血液の一部を用いて、早期診断ができる可能性がある。また、ある特定の疾患に特徴的なプロファイルを得られれば、他の病気にも応用できるため、この研究は意義深いものと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
初年度の研究目的であった、質量分析計を用いたヒトの細胞を使ったメタボロミクスの解析プロトコールが確立できた。懸念されていた再現性もよく、当初の予定通り、おおむね順調に進展している。
がんの転移は、上皮性のがん細胞が、より運動性の高い間葉系細胞の表現型を獲得することがきっかけとなる。これを、上皮間葉転移(EMT: Epithelial-Mesenchymal Transition)といい、このEMTは、TNF-αとTGF-βの同時投与により誘導できる。これを材料に、昨年度確立した方法を用いて、EMTを起こしたがん細胞とそうでない状態の細胞の代謝物パターンの比較を行い、がんの転移と相関して変動する代謝物を、統計解析の中の一つの方法である多変量解析によって探索する。これには、統計解析ソフトであるSIMCA-Pで、主成分分析(PCA)によるローディングプロットを用い、このグルーピングに寄与する代謝物を同定する。さらに、その代謝物プロファイルの違いの機序を明らかにするため、代謝に関わる酵素についても網羅的に量的変化を調べることを考えている。
研究成果が学会発表にいたらかなかったため、それに予定していた分を使用しなかった。
来年度以降の研究成果の学会発表のために用いる予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Cell Reports
巻: 9(2) ページ: 661-673
10.1016/j.celrep.2014.09.030.