がん(悪性腫瘍)は日本人の死亡原因の第1位で、約1/3を占めている。このがんで死に至るケースのほとんど(9割)で、がん転移を起こしていることが知られている。原発巣での外科治療や化学療法によるコントロールに成功しても、最終的に転移巣が大きくなって予後不良となる。がん転移を早期に発見する有効な手段はほとんどなく、簡便で低コストかつ効率よくスクリーニングする方法が求められている。そこで、がん転移の早期検出法として、代謝物(生体内低分子化合物)プロファイルを利用することを考えた。 がん転移は、上皮性のがん細胞が、より運動性の高い間葉系細胞の表現型を獲得することがきっかけとなる。これを上皮間葉転換(EMT: Epithelial-Mesenchymal Transition)といい、TNF-αとTGF-βの同時投与により誘導できる。これを材料にして、EMTをおこした乳がん細胞で変動する代謝物群を同定している。 同じくEMTをおこした細胞群を、安定同位体を含むアミノ酸を加えた細胞培養液中で培養(SILAC: Stable isotope labeling by amino acids in cell culture)し、乳がん細胞での転移における代謝物変動を担う代謝酵素の同定を行った。この結果、EMTにおいて変動する代謝酵素群を検出し、EMTをおこした細胞に特徴的な代謝物パターンの変動が理にかなったものであることが判明した。また、その他にもユビキチン化(Putative E3 ubiquitin-protein ligase UBR7)や脱リン酸化酵素(Receptor-type tyrosine-protein phosphatase eta)など、翻訳後修飾にも関与するタンパク質変動が明らかとなった。
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